あじさいタウン [青春/自分探し]
その時もうすでにバンドだった まるでそういうオリジナルの…
「タダっさん俺決めた 俺とバンドやろう!もう一回二人でメンバー探してみよう!」
それはフォースのお導き。
茶柱の啓示を受けたリツオは雷雨の中、異様なテンションで親友のタダシの家に駆け込んだ。
ぎょっとするタダシ。二人は高校時代から意気投合し、バンドを組もうと誓い合った仲だった。
しかし高校時代に組んだ他の二人との「音楽性の違い」によりあえなく解散。大学に入ってからは気の合う仲間に恵まれず実に1年半を無為に過ごすハメになっていた。それが…
正気と狂気。追い詰められたリツオの言葉にタダシは決意を感じ取り、最後のメンバー探しを承諾する。
そうして数日後、二人が出会ったソウルメイトは…一人の少女と一人の宇宙人だった…!
私はロックバンドはおろか、最近ではJ-POPすらロクに興味を示さない朴念仁なわけなのですが、これはなんというか「めっけもん」でした。
ロックバンドを扱ったマンガと言えば、ハロルド作石さんの「BECK」とか浅野いにおさんの「ソラニン」、そして最近では可愛い女子高生たちが放課後にティータイムな日常を過ごす「けいおん!」など、特殊な才能だったり、行き詰まりを感じてあがいていたり、萌え~な青春を謳歌していたりするわけですが、それらと比べるとこのマンガは一見地味です。
大学生の3人と+1人が出会って、バンドを結成して活動する…+1人のメンバーは「宇宙人」なので、SFちっくなお話が展開されるかと思いきや、物静かな至って常識人(?)だったり。画面も殆どが静的で、ドラマチックな青春群像劇が展開されるわけでも、生きづらさを感じて歪んだソウルを叩きつけるわけでもない。ごく普通の(?)4人が地道に曲を作ってライブで披露して、そんな駆け出しアマチュアバンドの活動の日々が描かれるのです。
ではどこがいいのか。それは互いに必要なメンバーと出会い、アマチュアバンドを結成し、ライブを披露する舞台を得て他のバンドのメンバーとも知り合って少しずつ周囲に自分達が認められていく感覚―
そんなバンド活動を始めた頃の、わくわくする感じがいいんです!
話は主に4人のバンド結成に至るまでの経緯、つまり高校時代からの親友タダシとリツオが、偶然出会った実々子と、その相方である宇宙人のヌっさんに出会うエピソードが描かれます。そこでの出会いがへっぽこで良いんですよ!バシッ!と一発目の覚めるような演奏を聴かせて「俺についてこい!」みたいなドラマチックな演出なんて全くなくて、なんていうかこう…キメきれないというか、「あのー バンドやりませんか?」みたいな恐る恐るな感じ。初対面の人だしそりゃ当然だよね、みたいな。現実にはこうだよねみたいな。でもその一言を絞り出すことの勇気を「バンドをやりたい!」という気持ちに後押しされておっかなびっくりながらも絞り出す感じ。そして4人が集まって初めて互いの楽曲を合わせて気づく、思いもよらない一体感…!
ああ、こいつらとだったら今度こそやっていける!
互いに待ちに待ったメンバーとの出会いを確信した彼らが握手する姿にビビッっとくるんですよね。
更に静的な画面構成もこれが非常に良い。
例えば冒頭、誰もいない練習用のスタジオにて。
定点カメラのように入口あたりを映して固定されたような画面に一人、また一人とメンバーが登場するのですが、既に来ている実々子とヌッさんが楽器の準備を整えていると、次のコマでは遅れてやってきたリツがドアの窓から中を伺っている様子が継ぎ足されます。更に次のコマではリツが軽く挨拶をしながらドアを開けて入ってきて、迎えた二人は「遅刻だよー」とか軽く文句を言う。この様子がまるでソロ演奏から一つずつ楽器が参加して徐々に徐々に盛り上がっていくような、そんな曲を聴いているような気分にさせるんですよね。
そして全員揃ったところで「それじゃあ始めま~す」とドラムのタダシが ワン ツー スリー とスティックを叩いた次のページでタイトル!じゃーん!
次のページからは1ページずつ各キャラクターの紹介。
うまく表現できないですけど、ここ脳内でBGMが流れるんですよね~
「コマ運びが良い」という言葉は通常は次!次!とページをめくらせる疾走感を演出するものに使われることが多いと思うのですが、このマンガのコマ運びは静的なんだけどじわじわっと盛り上がる。リズムがいい。
普段が静的な分、どわぁっ!と盛り上がる部分も印象的です。
彼らの裡に湧きあがる興奮が滲み出てくるようなバンドマンガ。
おススメです!
あじさいタウン単行本特設サイト
AJISAI TOWN (このマンガの前身らしい1st SEASONが掲載されています)
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