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だかあぽ [ハートフル]


だかあぽ (ジャンプスーパーコミックス)

だかあぽ (ジャンプスーパーコミックス)

  • 作者: 鷹城 冴貴
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1994/07
  • メディア: コミック


何度失敗したっていいじゃないですか もう一度最初から始めるんです…
もう一度… もう一度…! 音楽の譜面で言えば… “D.C.(だかあぽ)”ですわね…


時は明治。
風薫る季節…背中に大荷物を背負ったはつらつとした少年が、
猫を一匹お供に連れて菅原高等学校に入学した。
(牧村先生… 俺…とうとうここまで来たよ…)
少年の名は波多野万次(はたのまんじ)、彼が興奮するのも無理は無い。
ここは彼が幼少の頃、万次に勉学を教えてくれた恩師の卒業校でもあったのだ。
意気揚々と学生寮を訪ねた万次。とにかくも管理人室に挨拶がてら案内を請おうと
馴れない寮内をウロウロしていると、近くの部屋から人の話し声が聞こえてくる…
(おっ 誰かいるぞ… 挨拶しとくか…!)
これから同じ寮に住むもの同士、最初の挨拶は肝心だ。
万次は小柄ながら扉を開け、これ以上無いくらい元気な声で挨拶した。
「皆さんはじめまして!! 今日からここでお世話になる波多野万次です!!!」
刹那―
先ほどまでしていた姦しい話し声が、水を打ったようにしん…と静まり返った。
そして万次もまた、扉を開けた格好のまま瞬時に硬直していた。
…それもそのはず、その部屋は女子生徒たちの更衣室だったのだ…!
『キャーッ チカンよ~!!』
その声に弾き飛ばされたかのように、真っ赤な顔で両手に脱いだ下駄を持ち、裸足で遁走する万次。
「キャッ!」
その途中、ぶつかった女性が持っていた紙束を取り落としてしまう。
すかさず万次は詫びながら、全力でそれを拾い集めてその女性に手渡す。
「ありがとう…」
思わず目を瞠った。
理知的でいながら温かい瞳、頭に大きなりぼんを結び、たおやかに微笑むその姿…
先ほどまでとは全く違った興奮に紅潮する。正に一目惚れだった…
「随分親切なチカンさんね…」
「俺 チカンじゃありません!!」
思わず顔を近づけて必死に弁解する万次 しかし―
『まあ 図々しい!! まだいるわよあのチカン!!』
先ほどの女性達から飛来した鍋が見事に的中。
こうして入寮初日から万次の名は、不名誉な笑い種として
ヒマな学生達の口の端にのぼることになったのだった―

本日ご紹介する本は、実は当ブログで2回目になります。
1回目はブログがスタートした直後に採りあげており、
なにゆえのリメイクかといえば、それはただ読んでいただきたいからに他なりません。
…というか、初期の記事は本質的には拙いことに変わりはないのですが、
極端に内容が薄いため補完というかいっそリメイクで、
みたいなカンジで書き直したいと思ったからです。
それほどまでに私の中でこのマンガは聖書的な本であり、
どうしても贔屓は入ってしまいますが、今大人の私が読んでも
初めて読んだ子供の頃と同じ興奮を感じられる作品集であるのです。
できればお付き合いいただけると幸いです。

著者の鷹城冴貴さんは、本名の川島博幸名義でもマンガを描いていて、
主に1986年~2004年あたりまで活動をされていました。
…過去形になってしまいますが、その後の鷹城さんの作品はとんと拝見することができず、
ググっても直近でそのお名前を拝見することはまず無い漫画家さんです。
1963年生まれの京都府出身の方で、週刊少年ジャンプで一時期「くおん…」という
母子家庭の女の子と父子家庭の男の子が、二人の親が結婚したことで兄妹になるという
青春マンガを連載された他は、季刊のジャンプ増刊号で毎回読みきりが一本掲載されていました。
普段の少ない小遣いでは毎週漫画雑誌を買うなんてできなかったし、店番のおばちゃんがいる前で
堂々と立ち読みする度胸も、供給してくれる都合の良い友人も無かった私は、学校の長期休暇の度に
茨城の母方の実家に一人で行く時にいつもより多めに貰える小遣いが楽しみで、
そんな時は普段連載マンガを読めていない私でも判る雑誌として、
読みきりばかりが載る季刊の少年ジャンプを決まって買うことにしていました。
その中で私にとって一際印象に残るマンガだったのが、鷹城さんの読みきり作品だったのです。

この単行本にはその読みきりの内
「だかあぽ」 「かんとりいぼうい」 「風と緑の子守歌」
「そしてSO LONG!」 「ミッキ」 「ジョン・フリック物語」の6編が収録されています。
その絵柄の特徴は何と言っても世界名作劇場風であり、特に立派な髭をたくわえた
おじさん、もしくはおじいさんが主人公の良き理解者として出てきて、これが実に優しくて
いい大人なんですよね~

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柔らかめの名作劇場風の絵でコメディちっくに進みつつ、ここ一番の盛り上がりどころでは
ジャンプ作品らしいアツい展開。最初はマヌケなところもあるコメディチックな主人公が、
可憐な女の子に惚れて一転ひたむきに頑張るお話も多く、そのうちの1本「ジョン・フリック物語」は、
とある街を牛耳る腹黒い権力者が、自分に都合の悪い情報を知られてしまった鉱夫を
鉱山でのトンネル事故に見せかけて殺害します。
その罪を認めさせようと、その鉱夫の遺族に懇願され、仕事が少なく病弱な妻のために
弁護士を廃業しようとしていたジョンが、証拠集めに奔走することになります。
その中でジョンが妻をいたわりながら、被害者の遺族と共に権力者に立ち向かっていく
姿が描かれ、目を付けた権力者がジョンに手を引かせようと町中の医者に圧力をかけ、
そのためにジョンは体調を崩して瀕死の妻を診てくれる医者を求め、
彼女を抱えて深夜の雪道を駆けずり回ることになります。
そんなジョンが必死に助けようとする妻もまた、美しく清らかで、
自分の身よりもジョンのことを考え、自分のために権力に屈しそうになるジョンの正義を
その命と引き換えに守るのです…。
妻が亡くなったことを感じた直後の、涙でぐしゃぐしゃになるジョンの顔…!
「どうして俺は医者じゃなかった…」と雪の中うなだれる彼の悲痛なモノローグが実に印象的なんです。

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もう一話。
冒頭の「だかあぽ」は、自分の人生に多大な影響を与えてくれた恩師との再会と別れを経て、
真っ直ぐに、人を思いやれる男になった少年・万次郎の話。
そのクライマックスでは好きあっている女性がいるのに
奨学金が貰える留学試験に落ち続けて自身を失くし、その女性に「金持ちの男の下へ嫁げ」
と言った同室の先輩・滝田と取っ組み合いになりながら、相手の気持ちも考えろ!
と諭す場面が本当にカッコイイ。
なんたってその女性には万次も一目惚れだっただけに、激しい嫉妬をおぼえながらも
それ以上に滝田の不甲斐なさにムカっぱらを立てる姿がカッコイイんですよ(;´▽`A``
他人の幸せのために自分の痛みを押さえつけながら必死になってくれる人の姿。
これを劇的に描く絵作りのうまさがあります。

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その他にも
「かんとりいぼうい」の主人公の命乞いをするために女の命を捧げる綾女さんや、
「風と緑の子守歌」の自分の主義を曲げ、人に嘲笑われながらも瀕死の少年の
治療費のために演奏するマーシュ、
「そしてSOLONG!」でのヒロインとの最後の勝負で、そのまま止まらず走り去ってしまうサム、
「ミッキ」で双子の妹のピンチに自らの拳が砕けるのも厭わず不良に飛び掛る双子の兄・恭一…
どれもこれも読みきりという一話完結の制約の中で印象的なシーンが目白押しです。
まだの方には是非ご覧になっていただきたいマンガでございます。

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コメント 2

サワダ

鷹城冴貴、なんでいなくなったんでしょうね。
くおんは好きだったなあ。
なんかロボット的なものも描いてなかったでしたっけ。
by サワダ (2011-04-22 09:28) 

meriesan

「カルナザル戦記ガーディアン」ですね。>ロボットもの
あれは1巻が出たきりで未完なんですよね(;´▽`A``
くおんも良かったですね。
いつかどこかでまた作品を描いてほしいですね~
by meriesan (2011-04-22 13:41) 

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