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ふらり。 [ハートフル]


ふらり。 (KCデラックス)

ふらり。 (KCデラックス)

  • 作者: 谷口 ジロー
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/04/22
  • メディア: コミック


ああ… 江戸が… こんなにも美しいとは

これは贅沢だなあと思えるマンガでした。
谷口ジローさんのマンガを拝見するのは「犬を飼う」「孤独のグルメ」ときて
まだ3冊目なのですが、今回ご紹介するマンガは「孤独のグルメ」に近い、
歩数を数えながら江戸の町を歩き回る一人の男の物語です。

モーニングにて連載。

明け六つのまだ人々のしんと寝静まった夜明けの時刻。
片手に方位を示す奇妙な杖を持った初老の男が、ひたすら歩数を数えながらスタスタ歩く。
かと思えば、時折立ち止まって帳面にその数を書きとめては何やら
頭をかいたり渋い顔をしたりしている。
やがて静寂に朝一番の物売りの声が聴こえ始めると、町は徐々に動き出す。
こちらでは活きのよい魚を満載した天秤を担ぐ魚売りとすれ違い、
あちらでは新鮮な野菜を買い求める近所の長屋の奥さん方の声が響き渡る。
今日もお天道様が昇り、今日も華のお江戸は天下泰平―

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はっきりとは書かれていませんが、伊能忠敬とおぼしき男が主人公の物語。
伊能忠敬といえば、十度に渡って日本全国を測量し、
初めて日本の形を地図に著した人ということで有名です。
これは彼がやがて国家的な大事業に育っていく全国行脚を始める前のお話し。
商人として成功を収めた後は家督を息子に譲って隠居し、江戸に居を構えた彼。
幕府の天文方・高橋至時に師事して測量や天文学を修めた後は、
ひたすら江戸の通りを一定の歩幅で歩き回って方角を確認し、
歩いた数を書き留める非常にシンプルなやり方で測量を行っています。
来る日も来る日も歩き、時には同じルートを歩いて自分の歩数に狂いが無いかを確認する。
そんな非常に地道な作業を描くわけですが、それはとりあえず裏設定として
知っていれば良いことで、このマンガの見所は彼がふらりと歩く大江戸八百八町の風景です。

あちこちで客寄せをする露天商や大道芸人達、着物姿ですれ違う人々、
時折大荷物を積んだ馬車が通り過ぎ、飛脚がせわしく走り回る。
そんな活気のある江戸の町の風景がいつもの谷口さんの淡々とした絵で描写されたかと思うと、
橋の欄干から望む富士の山、咲き誇る桜、そしてどこからか鳶が現われるや
今度は賑わいを見せる町を遥か彼方において、空から江戸を一望する屏風絵のような
ダイナミックな構図へと私たちの目をさらってくれるのです。

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主人公の彼も一所懸命数を数えながら歩いてるかというとそんなこともなく、
周りの風景を愛でたり、ふと気になった人に声をかけてみたり時には奥さんと
デートとしゃれこんだりと、まるで ちぃ散歩だかブラタモリみたいな風情。
時には花見で出会った一本の桜に耳をあて、その桜の見たであろう昔の風景を観たり、
見かけたトンボが風にゆられながら ゆうらりと江戸の町を見下ろす視点になったりと、
それが彼の想像の夢なのか、それともそういった共感の才があるのかは不明ですが、
いつもとは違った別の生き物の視点で見る場面転換なども随所に出てきて、
花鳥風月や江戸の人の営み、風俗、そしてモチロン江戸のウマいもんも…w
ゆったりとしたコマ運びで描かれるのがいいんですよね。
ぽつり ぽつりと喋るテンポもすきだなあ。
風景に見とれていると、口からは「ああ」とか「うん」とかしか出ないですよね。
少ないけれど風景と共に置かれるそのセリフが、彼の裡に湧き起こった感動が漏れ出たようで
静かだけど、ふつふつと私を興奮させてくれるんです。

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そうですね、江戸に観光にきたような気持ちになれると言いましょうか、
いつもは乗り物でせわしく通り過ぎてしまう風景を今日は散歩してみようかなんて思わせてくれる、
そんな素敵な出会いが目白押しのお話でございました。


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