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刑務所の中 [青春/自分探し]


刑務所の中

刑務所の中

  • 作者: 花輪 和一
  • 出版社/メーカー: 青林工芸舎
  • 発売日: 2000/07
  • メディア: コミック


人間うまいものを毎日腹いっぱい食ってたら脳がどんよりして必ずだめになるな…

漫画家・花輪和一
1971年。個性派漫画雑誌ガロでデビューし、丸尾末広と並ぶ耽美系・猟奇系の漫画家として
作品を発表していました。
しかし90年代半ば、モデルガン好きが高じて実銃を所持していた罪で
銃刀法違反に問われ3年間の実刑判決を受け塀の中へ…
今回ご紹介する本は2002年に映画化もされた、花輪さんの刑務所での生活を
ほぼ記憶のみで緻密に描き出したエッセイ風の刑務所漫画です…!

アックスにて連載。
刑務所を舞台にした漫画といえば、個人的には同部屋になった面々が
年越しのおせちを賭けて「うまいもん話バトル」を繰り広げる「極道めし」
記憶に新しいのですが、あれは飽くまでも刑務所内に入るまでの物語が主役でした。
今回のものは、花輪さんが服役されていた時の刑務所内での体験を
リアルに描き出している点で、実に面白い作品です。

刑務所生活と言えば、古くは「あしたのジョー(アレは少年院ではありましたが)」などで
見るような新入りに行われる陰湿ないじめや、受刑者同士の権力ピラミッド的なものが
多少なりともあるのかなあとか、あまりに劣悪な環境に、早く出たい一心で脱獄を画策する人とか
いるんかなあ~ なんて思っていたのですが、中は驚くほどに「平和」
…というより「完璧に管理された生活」であるためにそういったことが起こる隙がないというか(;´▽`A``
何しろ何をするにも刑務官の許可を求めることが徹底されていて、仕事に従事している間は
うっかり消しゴムを落としたのを拾うだけでも
「願いま~す!」
と手を挙げて、刑務官に気付いてもらえるまで勝手に持ち場を離れることが
厳格に規制されているのです。
トイレに行く時だって、今にも漏らしそうになるのを必死に耐えながら
「願いま~す!」と気付いてもらえるまで動けません。
許可が出た場合も、床に引かれた線に沿って「両手を腰に当てて小走り」で移動し、
刑務官の前に着いたら、足元の足のマークの上で脱帽し、
「用便願います!」
と伝え、身体検査を受けてから再び「両手を腰に当てて小走り」し、トイレに入るという按配。
風呂に入るのも受刑者達でごった返す浴場内に制服の刑務官が数人配置され、
規則から外れるとすぐに怒号が飛んできたりします。
事ほど左様に、自由時間として相部屋で過ごす時間以外は、何をするにも
刑務官に許可を求めるシステムが完成されているのです。
「シャバでも『願いま~す!』って言っちゃいそう」
とこれには花輪さんも辟易していたりします。

img560.jpg
しかしかといって花輪さんが窮屈極まりないと
フラストレーションを溜めているかと言えば案外そうでもありません。
その要因の一つが同じ房の仲間たちとのやりとりと、
毎回の「食事」に対する強いこだわりがあるからです。

なんたって勝手に室内でクロスワードパズルを解くことすら
規則破りとして叱責される刑務所内において、毎食の献立は
花輪さんだけではない皆の強い興味の対象となっています。
「極道めし」でも、年越しにいつもより豪勢に振舞われる「おせち料理」を
指折り数えて待つ面々が描かれていますが、もうこの食に対する渇望…
とりわけ「甘いもの」が出るという時はヨダレを垂らさんばかりに
その時を待っている様子が描かれています。
そして漫画内で事あるごとに出てくる食事の献立…!
花輪さんの記憶によるものか、はたまたノートに書き記していたのかは判りませんが、
毎回の食事が事細かに描写され、皆目を輝かせて配膳を待つ姿が描かれます。
甘いフルーツカクテルに小倉小豆とマーガリンにコッペパンなんていう日などは
もう脳が蕩けるほどに感激し、かつてシャバで食べたどの食事よりも
その甘味がたまらないと断言するのです。
食事を持ち出すことも他人の食事を分けてもらうことも
処罰の対象になるのですが、この時ばかりはその危険を冒してでも、
刑期が延びてシャバで夫の帰りを待つ女房・子供がいるパパであってさえ
食欲をそそらずにはいられない甘味の魔力…!
チョコ菓子とコーラを配布された日には、大の大人が本当に名残惜しそうに
段々と減っていく菓子を大事に味わって食べていくのです。

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世間から隔絶され、完全に管理された刑務所内だけが世界となっていく生活―
それは間もなく釈放となるとある受刑者がシャバで生活できるのかと憂鬱になっている姿だったり
花輪さんが「ひたすら起きて飯食って寝てまた飯食う 家畜の豚のような生活」と
醜く肥え太ったかつて観た豚とを重ね合わせたりする閉じた世界。
自由ではないものの管理を「してくれる」ことによるある種の安心・まったり感が漂う獄中生活は、
私のそれまでの認識を大きく変えてくれた実に面白い本でした。

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