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黄色い本 ジャック・チボーという名の友人 [青春/自分探し]


黄色い本 (アフタヌーンKCデラックス (1488))

黄色い本 (アフタヌーンKCデラックス (1488))

  • 作者: 高野 文子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/02/20
  • メディア: コミック


いつでも来てくれたまえ メーゾン・ラフィットへ

「そもそも本なんか読んで、漫画なんか描くことになったスタートを描こう、と思った」
著者の高野文子さんは、この作品についてそのように語ったそうです。
高野さんは1957年の生まれ。「AKIRA」などで著名な大友克洋さんや、さべあのまさんなどと一緒に
それまでにない深い心理描写で「ニューウェーブ」の旗手と目された方なのだそうです。
この本は、中でも特に評価が高く手塚治虫文化賞を受賞した「黄色い本」を収録し、
他数編の短編が含まれた作品集となっています。
このレビューではメインとなる「黄色い本」についてご紹介してみようと思います。

月刊アフタヌーンにて連載。
全5編からなる、新潟県出身の高野さんの高校時代をモチーフにした物語です。
田舎町で育ったため、あまり漫画を読む機会に恵まれなかったという高野さん。
主に図書館で借りた児童文学などを読んで過ごしていた彼女が、
「チボー家の人々」という黄色い表紙の海外文学作品に出会った頃のことを
裁縫が得意な雪国で生活する文学少女・田家実地子(たいみちこ)をヒロインに描いていきます。

この物語の核となる「チボー家の人々」という小説は、デュガールという
フランスの小説家によって1920年から1940年まで実に20年をかけ全8部で完結し、
1937年にノーベル文学賞を受賞した大河物語。
20世紀初頭のカトリック教徒で封建的な父親を持つチボー家と、新教徒のド=フォンタナン家の
生活が描かれ、「黄色い本」の中では、物語の主人公の一人であるチボー家の次男・ジャックの
美しい青春の日々と、やがてスイスに渡って小説家となり、第一次世界大戦へと突入していく
ヨーロッパに対して、戦争に反対する革命家となる彼の生涯に触れています。

図書館でこの5冊からなる小説を借りた実地子はすっかりジャックに惚れこみ、
母親に怒られながらも家族が寝静まった深夜に、一人電気スタンドの明かりをや月明かりを頼りに
読み進めている様子が描かれたり、夢か現か、普段の生活の中でも物語の一節を口ずさんだり、
父親に「トーチャンはプロレタリアート?」と質問したり、友人達との何気ない会話の中で
作中の難解なセリフがついと出てきたり、あるいはジャックや彼の仲間たちの前で、
小難しい政治論を主張して拍手喝采される自分を想像をするなど、
所々で現実の自分の日々の生活の中に混じりあうほどに影響されている様子が描かれます。

ああ、こういうのあるある…
特に中学・高校時代にハマりこんでしまうと、時に邪鬼眼なんて「中二病」をこじらせる場合も
ありますが、程度の差はあれ、こういう体験は多くの人が共感できるのではないでしょうか。
漫画の中では、卒業を間近に控え、就職先の話が出てくるような普段の彼女の生活と、
物語世界に没入して時に想像のジャックが出てきたり、時に本の活字をコマに描くことで、
現実と幻想の世界をシンクロさせたり、自然な形で入れ替えたりする描き方がされています。
この違和感のない二つの世界の重なりや移行の表現が、高野さんの凄いところです。

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やがて彼女は「チボー家の人々」の物語を読み終わる頃と同時期に進路を決め、
ジャックをはじめとしたサロンに集まる仲間達に別れを告げることになります。
ラスト付近で片時も「チボー家の人々」を手放さない実地子に、父親が
「その本、買ってやろうか」と言うのを断るシーンなどは、
現実と強くシンクロするくらい好きで好きでしょうがない物語だからこそ、
いつかは返却しなければならない図書館の本と、高校時代という自分の青春の日々に共に
サヨナラしていく様子がぐっと胸に迫ります。

「チボー家の人々」を読んでない方であれば、まずそのあらすじを知らないまま読む一読目は
おそらくワケが解らないだろうと思います。…というか、私がそうでした(;´▽`A``
一度読んで「ワケワカンナイ」と仕舞いこんで、もう1回ネットなどで下調べしてから読むと
二度目はその文学的な内容が解るようになってきて、全然見え方が変わるはずです。

ワケわからないまま一読。そしてネットであらすじをおさえてからもう一読。
この読み方を私はお薦めします。

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