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ミッドナイト・ウォーク [青春/自分探し]


ミッドナイト・ウォーク

ミッドナイト・ウォーク

  • 作者: 榎屋克優
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2011/08/20
  • メディア: コミック


ロックンロールを聴かせておくれ~~

今年も夏の甲子園が終わりましたね。
高校球児とは既に一回りは上の年齢になった私は、今でも何故か甲子園に出場する高校球児たちを「お兄さん」と感じることが多々あります。
それは負ければ一回きりの勝負に臨む、彼らの文字通り必死な顔つきとそれにふさわしい鍛え上げられた体つきからそう感じさせるのでしょう。一方で常にポーカーフェイスでプレイするプロ野球選手たちと違って、ピンチになれば如実に顔を歪ませてしまう年相応の子供の顔を見せたりする場面では可愛いと思うこともあったりして「子供なんだけど大人」「大人なんだけど子供」という不思議な二面性を持った高校球児たちの一夏の戦いに魅せられ、毎年胸をアツくさせてしまうのです。

そして榎屋克優さんのマンガにも私はそれを感じています。
たまらない青臭さは明らかに昨年まで大学の漫研に在席していた若者が描きそうな勢いに任せたそれなのに、じゃあ他の大学生の描いた生徒の作品と並べて見ると明らかに何かレベルが違う。ただの自己満足作品ではなくて、魅せ方をきちんと心得て描いている。
昨年「日々ロック」を拝見した時の自分のレビューを読むと、自分で笑っちゃうくらい影響されているのが判る。元々影響されやすい私なんですけど、他の読まれた方の感想を拝見するにやっぱりこの漫画は読者の胸に火をつける力をもっているのは間違いないと確信しました。それは「日々ロック2巻」の刊行、そして何より新人作家としては相当なことではないかと思われる榎屋さんの学生時代の読切短編集「ミッドナイト・ウォーク」の刊行が物語っていると言えます。

「高校生ですでにデビューして漫画家として大成功しているはずの僕はとにかく『あ~早くしないと死んでしまう!!!』という気持ちでとにかくあせっていて、ひたすら自分がおもしれー!!!と思うものを一生懸命描いていた思い出があります。」(あとがきより)
集英社ヤングジャンプ月例MANGAグランプリ準優秀賞作を含めた6本の作品が収録された作品集です。
榎屋さんの漫画と言えば「ロック」です。
ロックと言えば精神的には、既成概念への反発、強者への怒りなどを表現する音楽形態のことですが、この短編集ではしばしば学校でいじめられた少年が、ある日一大反攻を巻き起こすという形で描かれます。
それが一番判りやすいのが最初に掲載されている「ロックンロールを聴かせておくれ」
片やいじめられっ子、片や放送部部員。かつては暇さえあればロックを聴きまくっていた二人。
ある日すっかり疎遠になっていじめられっ子になってしまった友人から打ち明けられたのは、いじめっ子に対して明日の夕方決闘を申し込んだ旨と、放送部部員である自分にその決闘の際にローリング・ストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」をかけて欲しいという願い。
そんなことをすれば怒られるばかりではない、最悪停学だってありえるようなお願いに、放送部員の彼が下した決断とは…
もうなんでしょうね、ロックと放送室ってある意味黄金の組み合わせw

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ロックな作品ばかりが印象にある榎屋さんの作品において、「こういうのも描くんだ」と意外だったのが「サラリーマンの死」
これはそれまで出世街道をひた走り、明日のプレゼンが成功すればいよいよ未来の社長も夢じゃない、というほど順風満帆だった男が、ある日ちょっとした油断からプレゼンの資料一式を盗まれてしまい自分はもうダメだと自殺を決意する話。
それまでささやかながらも何らかの強者に反抗してみせ、周囲には認められないながらも達成感を得て終わっていた作品の中で、真逆をいくような一作ですが、失敗を認めるのを畏れ、甘やかな死に逃げ込もうとする彼と、それを嘲笑うかのようなラストは救いのないものですが決して目を離せないものでした。

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絵もお話も決して洗練されたものではないんですけど、この泥臭いのがいいんですよ。
「心探偵」のクライマックスでビデオテープを追いかける男と、老人の姿がダブる演出なんて、失礼ながら思わず「小ざかしいわ!」と思いつつもその迫力に感動してしまったりして。
日々ロックを気に入った方なら是非読んでみるべき。お薦めでございますよ。


収録作「ファンタスティックキラーコンドーム」の紹介を初出の総合漫画誌「キッチュ」の編集長がされている記事 → 「キッチュ」第二号掲載作品紹介:「ものつくり」という人種
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