マイナス [スリル/サスペンス]
あたしを…嫌わないで!!
新卒で高校のクラス担任を受け持つことになった恩田さゆり(22)は、
容姿端麗で理知的、生徒たちの受けも良く実に優秀な英語教師。
しかし幼少の頃に繰り返された父親の暴力がトラウマとなって
他人に嫌われることを怖れるようになった彼女は、
相手の機嫌を損ねないためならなんでもするという極端な思考を持つに至り、
それは時に誰かを陥れることをも厭わないものだった…
相手の顔色を伺って次々と起こす奇行。さゆりが良かれと思ってやった行為は、
周囲の生徒・教師を巻き込みながらやがて取り返しのつかないところまで落ち込んでいく…。
週刊ヤングサンデーにて1996年から連載。全5巻。(2004年刊行の完全版は全3巻)
「レンアイ漫画家」「シマシマ」「はるか17」などを描いた山崎紗也夏さんの
デビュー当時のPN沖さやか名義での作品となります。
他人に嫌われたくない。
誰でもがもっているであろうそんな心理。
しかし嫌われることを極端に怖れる彼女は嫌われたと感じると極端に卑屈になる。
卑屈になるから相手の嗜虐心を煽り、それは加速度的にエスカレートしてやがて相手を破滅へと導く…
まるでコメディのように極端なマイナス思考がゾッとさせる作品です。
以前「バカを休み休みいうPocast」で紹介されていたのが気になって拝見しましたが
この恩田さゆりの卑屈をこじらせた性格が凄まじい…!
見た目はしっかり者のクールビューティーな教師・恩田さゆり。
彼女のネガティブっぷりは、例えば新卒でクラス担任という異例の出世を果たした自分に
同期の女性から「クラスを持った感想」を聞かれる何気ない会話でさえ、自分が気の利いた
返しができなかったことを気に病むことになってしまいます。
(あの人はきっと「担任になったからってお高くとまっちゃって、まだクラスを持ったことが無い
私を蔑んであんな態度をとったんだわ」と思ったに違いない。するともしかしたら彼女は
職員室で私の悪口を吹聴して、私は先生たちから爪弾きにされるかもしれない…!)
もちろんさゆりと話した同期の人はそんなこと露とも思ってはいません。
「無口なんだなあ」という感想をもっただけなのに、そう考えたさゆりは
次に顔を会わせたときに人前にも関わらず、やおら「ごめんなさい」と深々と頭を垂れるのです。
まるでコメディのようにエスカレートする思考。
どこかでこの流れ見たことあるなと思ったら…
ルナ先生…(;´▽`A``
…とはいえルナ先生は飽くまでも生徒であるわたる君の未来を心配して起こす
行き過ぎた献身性ですが、対してさゆり先生の思考は自己保身に徹底しています。
そしてその為ならばその場その場で嘘もついてしまうし、自らの体を張って
男をたらし込むことだって辞さない。弱味を握られた相手に命令されれば
むしろ「これで許してもらえる」と嬉々としてどんな辱めでも受け容れてしまう…
八方美人に立ち回ってほどなくにっちもさっちもいかなくなった結果、
最後は自分の罪をなすりつけて誰かを陥れることを選択してしまう。
自分が他人に嫌われたくない、みんなが自分を好きでいてほしい、
そして自分が誰よりも愛されていないと気が済まない…
言わばいじめられっ子体質であった彼女の悪意の無い子供のように正直な自己愛・自己保身は
どんどんエスカレートしていき、さゆりの思考を「面白い」と言って協力する中村という
不良生徒を得ながら周囲の人間を次々と自分と一緒に破滅へと引きずり込んでいきます。
眉をしかめたくなるような醜悪なシーンは随所に出てきます。
しかしそれ以上に彼女の次に何をするかわからない、極端すぎる思考に圧倒され、
決してその行為を肯定はできませんが少なからず共感してしまうところもありました。
完全版として刊行されたエンターブレイン版には、当時過激すぎて掲載誌が回収になり
ヤングサンデー版の単行本では未収録となった幻の31話が収録されているのですが、
私はヤングサンデー版の表紙の、黒板に落書きしたデザインがすごく気に入っています。
どちらを購入するかはお任せですが、是非ご覧になっていただきたいです。
山崎紗也夏さんのblog → スキマのひとり言
コメント 0