7と嘘吐きオンライン

7と嘘吐きオンライン―HERO個人作品集―(ガンガンコミックスONLINE)

• 作者: HERO
• 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
• 発売日: 2010/10/22
• メディア: コミック

勇気なう…　（なんつって）

きっかけは「クラスの人がやってたので何となく」だった。
Twitter―
そこで私は、私の苗字をとって「7」をアイコンにした。
最初は何の反応も無くてつまらなかったけど、同じ趣味の人をフォローしていく内に
次第にフォローされるようになった。マリさんという良くリプライを飛ばしあう友達もできた。
でもクラスの人をフォローする勇気なんてない。
オンラインではそこそこ呟いているけれど、現実の私は…教室でも目立たず、たまに話しても
どもってうまく伝えられない。クラスメートに名前も間違えられるような地味な女なのだ。
友達同士で仲良くリプライを飛ばしてるのを見てると少しうらやましい…

「えー　やっぱり『7』って紺野君だったんだー」
ある日どこからか聞こえてきた喚声。
「あんまでっかい声で言うなよ」
どこか飄々とした態度が女子に人気の紺野君は、それをさらりと肯定してみせた。
私は耳を疑った。でもあえてそれを否定したり矛盾したりするようなことは呟かなかった。
もしかして私も、密かにこの状況を楽しんでいたのかもしれない。

今回のタイトルはTwitterをされている方の中では
「遂に―！」と思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか、私もそうです！
読解アヘンというHEROさんのサイト上で公開されている表題作の「7と嘘吐きオンライン」、
そして同様に公開されている「レッテルのある教室」「臆病色にひかるキャンバス」の3篇と
それぞれの作品に2ページ4本づつの4コマがおまけについて1冊にまとまりました。
私はHEROさんの作品はそれまで「７と嘘吐き～」しか読んだことが無かったのですが、
残りの2本もそれぞれに味わい深い作品でした。
今回はまだご存知無い方に向けてご紹介してみようと思います。

「7と嘘吐きオンライン」は、七島さんという友達がいなくて目立たない女子高生が、
Twitterを始めましたよ、というシチュエーションで始まる物語。
とあるきっかけで自分のアカウントである「７」を、同級生の紺野君だとクラスメートに誤解され、
それをなぜか肯定した紺野君。
七島さんは彼の嘘を知りつつも、さも彼自身の発言であるかのように振舞います。
始めは楽しんでいたけれど、次第にクラスでは目立たない自分の、ささやかな自己主張で
始めたはずの「７」というアカウントが、他人に成り代わってしまったという喪失感が、
やがて苦しみに変わっていく過程をヒロインの女の子のモノローグをメインに淡々と描いていきます。
現実では上手くいかないけれど、インターネットでは出せる社交的な自分。
「アバター」や極端にいけば「ネカマ」など、現実の自分とは違う理想の自分を
演じることができるオンライン。
「ルサンチマン」なんてオンラインゲームを舞台にしたコミックもありますが、
そこまでドラマチックではなくとも、七島さんの「7」に対する思い入れを
ひしひしと感じられるモノローグに非常に共感がもてるんですよね。
時折「７」を紺野君だと思い込んで話しているクラスメートと紺野君、そしてそれに合わせて
「7」で紺野君を演じ続ける七島さん。
ひとつずつひとつずつ嘘を重ねていって、自分ではない「７」を重荷に感じていく七島さん。
そしてお話はTwitter上で仲良くなった「マリさん」が
自分に宛てて送ってきたメッセージで急展開を迎えます。
ここ何日間か七島さんを悩ませていた「７」を巡るあれやこれやの謎が解けた時、
特にTwitterをやられている方なら存分にカタルシスを感じることができると思います。
この淡々としているんだけれど徐々に後戻りできない感じになっていく
エピソードの積み重ねが実に巧いんですよ～


その他の2作もこちらではご紹介いたしませんが、女子高校生を主人公に、
周囲からの評価に揺れる自分であるとか、リアルに自分の将来に感じる不安であるとか
不安定な「自分」というものに思い悩む姿が、面白いシチュエーションで描かれています。
お薦めです！

既に著者のサイトでご覧になっている方も、本になって綺麗になった絵や、
描き下ろしもあるのでそれらが気になった方は購入して損は無いかと。


ＨＥＲＯさんのＨＰ → 読解アヘン