orange [恋愛]
- 作者: 高野 苺
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/07/25
- メディア: コミック
「あの時ああしていれば」
そんなのはきっと 未来にいるから言える事だ
後から思えば簡単な事 でもその時の自分は精一杯で
高２の春。
菜穂のもとに１通の手紙が届く。
差出人は10年後の自分。
そこに書いてあるのは、これから菜穂に起こる出来事と、その時にとって欲しい行動。
『―過去にいる10年前の私
あなたにはこの先 たくさんの喜びや幸せが待っています
どうかその幸せに気づいて どうかその幸せをこぼさないように‥』
別冊マーガレットにて連載。
「あの時ああしていれば」
なんていつでも私たちは後悔を抱えています。
でも「あの時」の自分はそれが「ちょっとの手間を惜しんだ」からなのか、「それが精一杯だ」と思ったからなのかは分からないけれど、とにかく「それ」を選択した。
それが結果的に後々まで自分を苛むことになるとは思いもよらず‥
「もしあの時の自分に会えるなら、何も知らない当時の自分に言ってあげたい」
その想いが手紙という形でもしも本当に届けられたとしたら、「人生の攻略本」を手にした自分は後悔しない選択を迷わず実行することが出来るでしょうか？
この物語の主人公・菜穂は高2の春、10年後の未来の自分からこれから出会う事になる転校生・翔（かける）への想いを託されることになります‥
『4月6日 人生初の寝坊』
高2の始業日 菜穂は10年後の未来の自分からの手紙がポストに届いていることに気づきます。
訝しみつつも中身を読んでみると、そこにはこれから自分に起こる事とそれに対して菜穂にしてほしい行動が書いてある。そして10年後の菜穂は、自分が当時その行動が取れなかったことを今でも後悔していると、そして高校2年生の自分に同じ間違いを繰り返さないようにして欲しいと訴えているのです。
イタズラかと思いつつその先を読んでみると、手紙には自分が今日、「人生初の寝坊」をしたことが書いてあり、更には東京からの転校生・成瀬翔がやってくること、彼が自分の隣の席に座ることまで、書いてある事のことごとくが実際に起こるのです。
菜穂と男女合わせて5人の仲良しグループの輪の中に迎えられ、仲良くなる菜穂と翔。
翔は菜穂が友だちの間では引っ込み思案で遠慮がちな性格であることを見抜き、さり気なく菜穂の本当はしてほしいことを引き出してあげようとしたり、時にはそのムダに周りの人の為に自分が引いてしまうような態度が「気になる」とハッキリ指摘してくれる。菜穂は手紙にも書いてあるとおり、そんな翔のことが段々と好きになっていくのです‥。
手紙には具体的に様々な場面で翔に対して一歩勇気を出して踏み出すことを求めてきます。
けれどその選択は引っ込み思案で臆病な自分にはとてもとても勇気がいることで‥
この物語の素晴らしいと思える仕掛けは、言ってしまえばアドベンチャーゲームの攻略本のように「正解」が書いてある手紙に「こうして欲しい。そうしなければ後悔する」ということだけが書いてあるところ。つまり「そうしたら」もしくは「そうしなかったら」どうなるかが「具体的に」書いてないところなんです。
だから臆病な菜穂は岐路に立って選ぶべき正解を知っていながら立ち竦む。
「後悔しない行動」はとても勇気が要ることだから。
でも逃げ出したら何か後悔することが起きることを知っているから。
そして勇気を出して正解を選んだとしても、本当にそれが良い結果を生むかは分からないから‥
それは例えば片思いだった人に告白できないまま終わったことを後悔した自分から「絶対告白してね！後悔するよ！」という手紙を当時の自分が受け取ったとして、手紙のとおりに告白した結果OKを貰える保証はどこにもないのと一緒です。「とにかく当たってくだけろで告白すれば良かった！」と未来の自分は思えたとしても、当時の自分は砕けたくはないわけで‥ｗ この一見預言書のように見える手紙に、高2の菜穂が抱く冒頭の言葉が実に刺さる。刺さるんですよ‥！
そして心憎いのがこの物語、単なる翔との恋愛話ではないところ。
手紙には翔が高2の冬に、とある事で菜穂をはじめとした5人の前から姿を消してしまったことも書いてあるのです。それが残された菜穂たちにとって深い傷を残すことになってしまう‥なんていうのかな、青春ジュブナイル的とも言えるんです。お話は手紙を受け取った高2の菜穂を描きつつ、翔を失った10年後の5人をも平行して描いていきます。これがどのように物語にリンクしていくのか‥！ なんて。
なんかすっごく面白そうじゃないですか？！
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