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裁判長!ぼくの弟懲役4年でどうすか [スリル/サスペンス]


裁判長!ぼくの弟懲役4年でどうすか (ゼノンコミックス)

裁判長!ぼくの弟懲役4年でどうすか (ゼノンコミックス)

  • 作者: 松橋犬輔
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2011/06/20
  • メディア: コミック


判決が軽くなることを望んでない!!

重て~…
重たい…けど語弊を恐れず言うならば、それ故に面白い!
本書は北尾トロさん原案で、松橋犬輔さんがコミカライズした
様々な人間の裏の顔をリアルに描き出す裁判傍聴マンガ
「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」のシリーズの一つとして連載された作品なのですが、
わざわざ新たにご紹介しようと思ったのはなんと言っても
「松橋さんの弟が逮捕された」事件の裁判の模様を描いたものだからです。
実録の裁判傍聴マンガを描いていた人の家族に犯罪者が出てしまう…
松橋さん自身「マンガのような」と仰ってますが正にそんな言葉がピッタリ当てはまるめぐり合わせ。
こんなマンガはまず二度と見られないと思いますよ…!

最新作はコミックゼノンで連載中 全1巻。

「僕の母親は『仕事の邪魔になる』と思って僕に電話をかけてこない人だ
 だからもうこの時点で嫌な予感しかしなかった―」
2009年9月2日 弟が逮捕されたという事実を、母親からの電話で知らされた犬輔さん。
容疑は「児童福祉法違反」
携帯電話のプロフサイトの掲示板で女性名を使って中高生をスカウトし、
合計約100人を売春クラブなどに紹介して金銭を得ていたという…
物語はそんな衝撃的なお話から幕を開けます。
当時「裁判長!~」のコミックの売れ行きは好調、それを原作にしたTVドラマ「傍聴マニア09」の放映も
間近に迫ったこの時期に、それを根底から揺るがすような激震が犬輔さんを襲うのです。

今まで実際の裁判を傍聴して、そこで目にする様々な生の情報に触れてきた犬輔さん。
しかしそれは主人公の北尾太郎と同じくどうしても「他人事」であり、
いかに被告の一挙手一投足を観察して深く考察しても、
分からないところは言ってしまえば「想像」の域を出られなかった傍聴裁判。
今回のマンガが今までの作品と違うのは、何より事件を起こした弟の関係者であるという
「当事者意識」です。
「これからどうなるんだろう…」という不安に怯え、
「大変なことをしてくれた」とその不安は弟へのやるせない怒りを呼び起こす。
とにかく不安で不安で仕方ない…目の前の〆切り直前の仕事を抱えているのに、
どうしてもテレビをつけてしまう。そしていつも観ているテレビで
「アヤパンもみのさんもミヤネさんも」弟の名前を口にしている光景。
力強く元気付けてくれた担当編集さんにも「所詮は他人事か」と思わず感じてしまう犬輔さん。
母はショックで倒れ、元凶である弟はどこか楽観的で、今まで分厚いガラスに仕切られ、
それでも懸命にガラスの向うの当事者の心情に迫ろうと想像していた
まさにその「向こう側」の人間になってしまった犬輔さんの戸惑いと、不安の感情が序盤からドドドーッと
押し寄せてくるのです。
ノンフィクションであるがゆえに、劇中で語られる日付などからググってみれば実際に当時の
新聞記事を簡単に見つけることができるのですが、このマンガの読後にその記事を読むと
わずか15~20行程度で事件のあらましが語られるだけのあまりにあっさりとした内容に
軽く驚きを感じます。この毎日のように見かけるどこかで起きた事件に、これほど心乱され
不安になっている人がいるのか… そして普段なら何気なくスルーしてしまう犯人の実名に、
陳腐なセリフですけど「本当なんだ」という生々しさの一端を感じることもできます。

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客観的に冷静にみることはできなかった…
言ってしまえばいつもは一傍聴人として他人の裁判の様子を観るだけだった犬輔さんが
今回は渦中の人ということで、取材協力としてフリーライターの岡本まーこさんについてもらい、
お話の合間合間には原案を提供した北尾トロさんから視た今回の件の様子や、
犬輔さんとの対談が収録されていたりして、この事件に傍らから寄り添う第三者の視点でも
描かれているのがさすがとも思いました。
内容の方向性は違いますけど、昨年話題になった妻を亡くしたギャグマンガ家さんの実録マンガ
「さよならもいわずに」がその悪い夢の中にいるような、
強烈な独白をひたすらに情感たっぷりに綴っていたのに対して、
このマンガは時に場の空気をブレイクさせる担当編集久永さんのKYな発言が、
のめりこみすぎない適度ないつものノリに引き戻しつつ、
渦中の人となった犬輔さんの生の情報と、
北尾さんが感じたいつもの「裁判長!~」の視点での対比がされることで
「私達からはこう視えることが、当事者にとってはこういうことになっているのか」
という立体感をもって視えてくるのですね。

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犯罪者の家族となった自分にかかってくるイタズラ電話
「息子はこんな事をする子じゃないんです」という犯罪者の親から良く聞くセリフを
自分の母親から聞いた時に湧きあがる感情
元凶となった弟の様子に、重なる幼少の頃の思い出と、つのる憤り。
―そして いつもと同じだけど全然違う、通いなれたはずの法廷で感じるリアル

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いつもの球が130k/hの硬球ならば、140km/hの砲丸が飛んで行くような、
一言一言が重みを持ち、なおかつ一気に読ませる力に充ちています。
飽くまでも主観の作品なので、逆の立場の人(検察や被害者?)からの
視点は皆無ではありますが、やはりこの作品は稀有で貴重な作品だと思いますよ。
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