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侍っ子 [ハートフル]


侍っ子

侍っ子

  • 作者: 関谷 ひさし
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2008/11
  • メディア: 単行本


しかし 泣くだろな寂しくって…会いたくって… もちろん!そうなるのは拙者のほうだが……

関谷ひさしさんという漫画家さんの作品を拝見しました。
1928年(昭和3年)に生まれ、太平洋戦争を経て終戦後は新聞社で四コマを描いて漫画家デビュー。
その後は2008年2月・80歳で亡くなられるまでマンガを執筆されていたという、
昭和の時代を生きた漫画家さんの一人です。
主に昭和30年代に活躍され、当時の雑誌「冒険王」で発表された
「ジャジャ馬くん」のヒットを皮切りに、先生のマンガを好きで読んでいたという方の間では
「ストップ!にいちゃん」という作品を代表作として挙げる方が多いようです。
今回ご紹介するのはその先生が、70歳の頃から亡くなられる直前までの10年をかけ、
作品を完成させたというまさに遺作となったこの作品をご紹介します。
しかし決してノスタルジーとか記念碑的な意図で採りあげるものではありません。
読み終えて改めて「これが70代の漫画家の作品か!」と驚きをもってご紹介するものです。

この作品を知ったのは、「うさくんの脳みそやわらかい」でもご紹介した
Podcast「アマゾンプロダクツ 遊びのラジオ」の2010年のベストコミックの回でした。
それからAmazonでレビューを眺めて好評なのを確認し、更に私がいつも拝見させて頂いている
ブックレビューサイト「漫棚通信」さんでも絶賛されていたのが決め手となって購入してみました。
いやこれが凄かったです。

この作品は表紙とタイトルが示すとおりの時代劇で、
人を斬ったことも無い素浪人だが、ハッタリと逃げ足だけで
用心棒のクチを探すなどして日々をしのいでいる男・服部遁兵衛が、
偶然廃寺で出会った、親の仇を探して2年もの間放浪しているという
少年剣士に出会い、年端も行かぬ少年・独狼之介(ひとり おおかみのすけ)を見かねて
仇討ちの旅に同道するという筋です。

しかしこの少年、並々ならぬ剣の達人で、ひらりと彼の太刀が閃くや、
遁兵衛の無精ひげだけを綺麗に剃ってみせるというほどの腕の持ち主。
そのうえ真っ直ぐでハキハキした性格で、こうと決めたら頑として譲らない
意志の強さも併せ持つ、実に出来た少年なのです。
一方の遁兵衛は先ほどのとおりなので実際の荒事はからっきし。
だけど子供の年齢で過酷な運命を背負いこんでいる少年を放っておけず、
初対面で狼之介に親の仇と間違えられた時には最初は否定したものの、
「今わざとここで私が殺されれば、少年を過酷な仇討ちの旅から解放させられる」
と思い直すや、ブルブル震えながらも首を差し出しあえて討たれようとする
ものすごい献身性をみせるのです。

img786.jpg

誤解が解けた後もハッタリで世の中を渡ってきた言わばセコいおっさん侍が、
自分よりもよほどしっかりして腕の立つ少年にコンプレックスを抱きながらも、
腹を空かせているがそんなことはおくびにも出さない気丈な少年のために、
わざと「甘いのは苦手なんだ」と言って棄てる真似までして自分の饅頭を食べるよう仕向けたり、
一文無しなのでやむを得ず峠の飯屋の老夫婦と少年をだまくらかして無銭飲食させたり、
決して褒められた手段ではないものもありますが、自分が狼之介のためにできることを
一所懸命に提供してみせるのです。
そして狼之介の方もそのハッタリに薄々気付きつつも、
「自分が目を離すとまたろくでもないことをしてしまうから」
などと小生意気な口をききつつ、その実親に甘えるような離れ難い感情をもって
遁兵衛と接するようになるのです。

もうね、巻末の解説でも触れられているのですが、
「自分を慕ってくれる孫と、孫に何でもしてあげたくなっちゃうおじいちゃん」みたいな
まさに関谷先生のような年齢の方だからこそ描ける二人の結びつきが凄く良いんです!
遁兵衛が「自分は狼之介のお荷物なんじゃないか」と思い悩むところなんてもう…!
それは峠の飯屋の老夫婦など所々で出てくるキャラクターの中にも投影されていて、
一所懸命背伸びをしている少年剣士を見守る大人たちの雰囲気がたまらなくイイのです。

img787.jpg

作画のほうは、これはもう紹介されている方は必ずと言って良いほど口をそろえる
「70代のおじいちゃんの線とは思えないしっかりした作画」というご意見に異存はありません。
凛とした狼之介は勿論のこと、狼之介にいいとこ見せようと見栄を張る遁兵衛、
そして道中で出会う、仇の男を含めた様々なキャラクター達が皆どこかコミカルで
あっかるいのです。
本当、漫画は一生続けられる仕事なんだなあと納得できます。
機会がありましたら是非読んで欲しいです。


漫画家・山本貴嗣さんのレビュー(漫画家さんのお話が興味深かったので)→ あつじ屋日記
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鮫島

当番組を取り上げてくれてありがとうございます。

すごく丁寧でわかりやすい感想文、感服いたしました。
これからもヨロシクです!

by 鮫島 (2011-02-04 15:42) 

meriesan

いつも楽しく拝聴してます。
&お褒めいただきお恥ずかしい限りです(;´▽`A``
Podcastでとりあげて頂けなかったらこんな面白い作品には出会えなかったですよ。感謝です。陰ながら応援しております~!
by meriesan (2011-02-05 12:43) 

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