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長い長いさんぽ [ハートフル]


長い長いさんぽ  ビームコミックス

長い長いさんぽ ビームコミックス

  • 作者: 須藤 真澄
  • 出版社/メーカー: エンターブレイン
  • 発売日: 2006/01/16
  • メディア: コミック


生きてるってすごいね ゆずはすごかったね

「これは読んでおくといいよ」
いつもの同人誌即売会からの帰り道。
当時親しくさせていただいていた同人作家 あかやまゆきへさんと立ち寄った本屋で、
マンガを物色する私に薦められたのは一冊の猫まんが。
少し緑がかった水色の表紙に、虎縞模様のつぶらな瞳の猫と、
その周りにちょんちょんと3本のたんぽぽ。
それが須藤真澄さんの本に触れた、私の最初の一冊でした。
当時の私は実家住まいで猫を飼う前。特に動物マンガに興味があるでもなく、
非常に簡素だけどどこか温かみのある表紙にも、猫マンガならどれもこんなカンジだよなと思いました。
とはいえ毎度私好みの作品を教えてくださるゆきへさんのお薦めならと
特に何も考えず購入したのを憶えています。

あれから5年―
結果、このマンガは今だに私の中での猫…いや動物マンガくらいに拡げても尚、
不動の一冊として残りつづける作品となりました。
この作品は以前谷口ジローさんの「犬を飼う」のご紹介の際に軽く触れてはいるのですが、
未読の方にはぜひ読んで頂きたいので、スピンオフしてご紹介してみようと思います。

コミックビーム等に掲載。全1巻。
須藤真澄さんはかつてゆずという猫を飼っておられました。
その愛しっぷりたるやまさに猫可愛がりで、著作にも「ゆず」「ゆずとまま」など
数冊の本が出ているほど。そのゆずの物語の最後の著作が、
今回ご紹介する「長い長いさんぽ」です。

12才…人間で言えば60を超えたあたりというご高齢になったゆず。
しかし毛ヅヤもよく、食欲もいまだ旺盛、暖かな縁側のある古い家に引越し、
ここでゆっくりゆずの余生を送らせてあげようという飼い主の思いやりを大いに裏切って
ゆずは早速に柱に爪を立て、家中を走り回るやんちゃぶり。
足腰が弱って押入れの上の段に飛び移れなくなったくらいではへこたれません。
そこは代わりに人間を使う老獪さでカバーするゆずちゃんの好調ぶりは衰え知らず
といったカンジでございました。

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しかしそんな老いてますます盛んといった風情のゆずにも、確実に老いはやってきます。
ゆず16才。ヒトで言うなら80くらいになる頃には、さすがに胃腸が弱って体調も崩しがちになり、
その度に須藤さんや旦那さんがいきつけの獣医さんとの間を往復する日々が始まります。
そしてゆるやかに、本当にゆるやかに斜陽に向っていくゆずの小さな体は、
ある日体調が概ね安定してきたゆずを旦那に預け、海外への旅行に出ていた須藤さんの留守中に、
まるで切れかけのランプがまたたくように不協和音を奏で始めるのです。
旅先にいながらも毎晩公衆電話から旦那にゆずの様子を聞く須藤さん。
概ね良好だったゆずの体調も、旅行の日程を残すところわずかのところで、風向きが変わり始めます。
再び体調を崩して点滴を打ち、今もつらそうという報告を聴くや、つるっとこんな言葉が出たと言います…
「…ゆず 死んじゃうのかな」

img086.jpg

長年連れ添った愛猫の「死」を須藤さんが意識した、この初めてのシーンは、明らかにそれまでの
「年齢的にはよいお年」「最近は体調が思わしくない」と様々なものがそれを示唆していたとしても
まるで唐突に湧き出したかのように、異質なものとして表れます。
それからの不安に怯える須藤さんの様子と、その当時の自分を振り返るモノローグ。
そして帰国した須藤さんを待っていたものは…

もうね、本当。
猫を飼っていなかった当時の私でさえ、須藤さん夫妻の鬼気迫る様子には圧倒させられました。
千々に乱れたといっても過言ではありません。
それを察した時の須藤さんの、まず激しい否定が来て
続いて自己嫌悪、号泣、放心がごちゃ混ぜにやってくるこの感情。
可愛らしい須藤さんの絵柄ですら今は自虐の表現であるかのような、
脱力して放り出したような口調でいて、誰かが「冗談だよ」と言ってくれるのを期待するような、
そんな雰囲気がプンプン感じられるのです。

読み終わった時には迷惑がるのもかまわず愛猫を抱きしめたくなるようなマンガです。
是非、ご一読を…!


須藤真澄さんのHP → おさんぽ王国
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KAI

カミさんが猫好き&須藤さん好きなので、我が家にもこの一冊があるのですが、私はまだ読んでいません。
・・・というか、いまだに読めないでいます。
ゆず関連の漫画を読み続けてきたので、その最期を知ってしまうのが怖いんですね、正直。

by KAI (2011-05-05 10:53) 

meriesan

なるほど…ゆずの成長を順に追ってきた方には読むのはとてもエネルギーが必要なことですよね。
逆に私はこの本から入ったので、それ以外のゆず本を読んでも切なくなる気がして読む気になれていません(;´▽`A``
読みたい!と思えるその時がくるまで未読のままでいていいんじゃないでしょうか。
by meriesan (2011-05-05 23:34) 

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