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そう言やのカナ　[コメディ] [編集]

作者: 野村宗弘
出版社/メーカー: 日本文芸社
発売日: 2011/02/09
メディア: コミック

言うたろうが　わしが仕事モードで主婦したら　すごい事になるでと

倉橋カナ（22）　フリーターの妻　求職中の夫に代わって家計を支える
倉橋惣一（37）　求職中の夫　失業保険受給中　妻の代わりに家事もこなす
これはそんな年の差カップルの、他愛のない日々のおしゃべり。
「…おお　そう言やの　カナ」
見た目も語り口も熊のよう　なのにおしゃべり好きの夫の話は
ごろごろ　ごろごろ　ころがって　あらぬ方向へ…
「あーうまかったあ！　やっぱり惣ちゃんのご飯はおふくろの味やね！」
「…わし　できれば就職したいんじゃがのぅ…」
そうして今日も倉橋家は夫婦円満。

週刊漫画ゴラクにて連載。
「とろける鉄工所」「ものものじま」など、広島弁で喋るキャラクターたちの
やり取りがやけに面白い野村宗弘さんの新連載です。
1回4ページほどで17話ほどが収録され、その後は野村さんが漫画家になるきっかけとなった
12ページの短編と、携帯コミックサイトで連載し、文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品に
選ばれたという「十ヶ所くらいの穴」も併せて掲載されている、色々詰まった本となっています。

「そう言やのカナ」は、
不況の最中、年も年だしなかなか良い仕事のクチが見つからず
家事をしながらうだうだしている夫と、若くて何でも決断が早くチャキチャキしている妻。
そんな凸凹コンビの日々のおしゃべりを面白おかしく描いた物語です。
毎回お話は二人の雑談からスタートして、その会話の中のフレーズから連想した惣一さんが
「そう言やの　カナ」と言って、自身の思い出話を語る、というお話です。
もうこの二人の会話が読ませるんですよね。

このお話の何が良いかって、二つ挙げるとすれば
まず　見た目はコワモテのおっさんだけど、実は15才も年下の女性に
頭があがらないという、立場が逆転しているシチュエーション。
そして　なんと言っても広島弁で展開される会話が面白いんです。

夫としての「甲斐性」を人一倍気にする惣一は、早いところ仕事を見つけて
妻に頼ってしまっている今の状況を変えたいと思っている。
けれど妻は、最初こそ惣一の就職を応援している風の発言をしますが、
次第に惣一の職人的なまでの完璧な主夫っぷり（特に手料理）に惚れこんで、
自分が働くから惣一は主夫に専念してくれと言い出すようになってしまいます。
そして主夫は自分に向いているとは感じつつも、惣一はふと我に却って
「こんなんでいいんか　わし…」
みたいな自己嫌悪に陥っている姿が、こう言っちゃなんだけど凄く可愛らしいんですよ。
そして男らしい言葉が多い広島弁で、ころころと気分で表情の変わるカナちゃんに
「ぶち　うまぁ（ハート）」とか「うちは…」とか　じゃりん子言葉（？）で言われた日には、
それだけで惚れてしまいそうです(;´▽｀A``

その他の収録作である「ケーブルニヤリ」は野村さんにとってプロになるきっかけとなった
思い入れの強い作品なのだそうですが、これは正直自分のような情緒に欠ける
人間にはそれほど響かなかったのですが、「十ヶ所くらいの穴」の方は、好きな話でした。
これは半年先に結婚式を挙げることになった新婦が、「両親の娘」だった自分から
「他人の妻」という存在になっていく自分の立場の変化に戸惑ってマリッジブルーに陥りながら
ある種の「観念」ともいえるような気持ちで受け入れて、結婚式を迎えるまでの日々を描いた作品です。
結婚式と言えば、新婦は自分の晴れの舞台にワクワクしながら指折り数え、
新郎は逆にさして興味がなく面倒くさがる、みたいな勝手なイメージが私の中にあるのですが、
その立場が逆転したかのように、乗り気になれなくて、そして肝心な自分はそんななのに
周囲や夫や、両親までもがもりあがってくれちゃうから何となく申し訳ない気持ちにもなっている。
そんな新婦のモノローグが凄く…共感できると言ったら嘘ですね、なんか伝わってくるんです。
これはねー…どうなんだろ。　やっぱりご結婚されている方に読んでみて欲しいなあ。
なんかじんわりきますよ。野村さん、こんなカラーの作品も描くんですね。
じんわりお薦めです。