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草子ブックガイド [青春/自分探し]


草子ブックガイド(1) (モーニングKC)

草子ブックガイド(1) (モーニングKC)

  • 作者: 玉川 重機
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/09/23
  • メディア: コミック


生きてる本の中でならあたしは― どこにでも行ける

私の実家は数年前まで東京外国語大学のあった場所の目の前で、幼少の頃私は近くにある古本屋さんでよく立ち読みをさせてもらっていました。
まるで倉庫のように天井が高く、いつ行っても他に客も見当たらず静まり返った店内は、薄暗くて本独特の埃っぽいにおい。そこには沢山の棚が建ち並び、いずれもいい加減背表紙の黄ばんだ本が詰まっていて、巻数の多い続きものの本はビニル紐で縛って値札を貼っただけで無造作に台の上に積み上げられていました。
場所がら本の大半は様々な言語で書かれた難しそうな文学書ばかりで、入口近くに申し訳程度に並ぶマンガにしか興味が無かった私は、そこで巻数が揃ってない飛び飛びの本を適当につまみ食いしていたものです。
今は古書を扱う店もチェーン展開され全国規模の大きな店もありますが、古書店に共通して素晴らしいところだと思えるのが立ち読みを許されているところ。…もちろんそれは店主の裁量次第なのでハタキをかけにくる場合もあるかもしれませんけど(;´▽`A``
しかしいずれにしても新品で購入するより安価で手に入るという点以外にも、立ち読みで本の中身をじっくり味わい、これは自分の手元に置いて読み込みたい!と思える逸品を選び出すことができる環境が古書店の素晴らしいところだと私は思います。なにげに古本では基本望めないマンガの帯が挟まっていたり、新品で購入した時の店舗の特典(ポストカードなど)が挟み込まれているものを見つけたりして得した気分になれる場合があることも魅力の一つですね。
さて、今回ご紹介するのはそんな昔ながらのとある古書店「青永遠屋(おおとわや)」にやってくるとある本好きの中学生の少女・草子(そうこ)の物語でございます。

モーニング/モーニング・ツーで連載。
主人公の草子は店主と若い見習い店員の二人がいるだけの町の古書店「青永遠屋」の常連。しかし彼女がやってくると見習い店員の岬は思わず渋い顔。それというのも彼女は実は書店から本を度々代金を払わずこっそり持ち帰ってしまう少女だったからです。持ち帰る際には以前持ち帰った本を入れ替えに返してはいくのですが、当然これは万引きにあたる行為。返していくところからみて換金目的ではないことは判るのですが、岬が渋面をつくるのも無理はありません。
しかし好々爺然とした店主・青斗は彼女がこっそり持ち帰る本のセンス、そして彼女が返却する際に必ず挟み込む とあるものを見て、決して褒められたものではない彼女の行為を半ば黙認しているのでした…。

1話ごとに1作の物語をモチーフにして、本を愛する草子や青永遠屋の人々、そして草子の周りの人々との繋がりを描く物語。「本屋の森のあかり」などで描かれる本好きな人にはたまらない作品です。
単行本の発売日の少し前からTwitterで主に書店に関わる方々が話題にされていたので拝見してみました。
草子は両親が離婚して、父親と二人暮らし。
しかし父は絵で身を立てたいと願うものの、口ばかりで結局日雇いのバイトを転々としては飲んだくれているばかりのダメパパで、クラスメートにも馴染めず家にも学校にも自分の居場所が定まらない草子にとって、唯一自由になれる場所が物語の中なのでした。

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他人にはうまく馴染めないものの、彼女の豊かな感性を見抜いた店主の青斗や店員の岬、そして本好きが高じて度々授業を抜け出す彼女を追いかけてきた中学校の先生などが彼女を認め、本を通じて徐々に打ち解けていくところが見どころなのです。
お話中には古書店の専門用語が会話中に織り込まれ欄外に注釈がついているなど、隅々までカケアミの施された重みのある絵柄と相まって、まるで静かな部屋で雨音だけを聴きながら読んでいるかのようにどっぷりと物語世界に引き込む引力があるのです。

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作中で特に私が興味をもって読んだのは2話目の「ブックトーク」のくだりです。
これはこのような本の紹介をするブログを立ち上げている私だからなのかもしれませんが、一つのテーマを決めてそれに関連する本を語りながら紹介するというものだそうで、まさに憧れのというか…例えばPodcastで本の紹介をしている番組などを聴くと、自然と足がその本を求めて本屋さんに向いてしまうことが度々ある私にとっては、何らかの形でやってみたいなあと思えるものでした。そういったコンテンツを持たない方でも、相手の興味を惹く本の紹介ができたりしたらとても気持ちよいものだと思うんですよね。「ブックトーク」という言葉があること自体が初めて知ったのですが、そういった本の中身だけでなく本に関わる周辺情報的なものも織り込まれているのも面白いですよ。

扱うお話はロビンソンクルーソーから西行、星新一のショートショートが紹介されることもあります。それらを読んだ草子が物語世界のキャラクターになりきるくらいにはまり込む様子や、周囲の大人たちがとある本になぞらえて見失っていた何かに気付きを得ていく筋がなんとも深い。
こんな感じで1つの作品について人と深く話ができたらなあ…なんて羨ましくもなるんですよ。
読み応えのある一冊です。
このブログをわざわざご覧になりに来てくださる本好きの方であれば、きっとどこかに感じるものがあるんじゃないかなと。


玉川重機さんのblog → 散歩しながら飲むビール
早稲田大学が発行するフリーペーパー「WB」にて草子がブックガイドをしている描き下ろしのマンガが掲載されていますよ
早稲田文学編集室「玉川重機 連載「草子ブックガイド 早稲田文学編」
 (リンクからスクロールして下にあります)
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