SSブログ

少年ノート [青春/自分探し]


少年ノート(1) (モーニングKC)

少年ノート(1) (モーニングKC)

  • 作者: 鎌谷 悠希
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/06/23
  • メディア: コミック


悔いを残さないで
大人はそうでもないけれど こどもの今日と明日は
過去と未来くらい違ったりするものだから


高く 強く 伸びやかに
少年の歌声は星々をめぐる
その透明なソプラノは ただ真っ直ぐに音を楽しみ 歌とたわむれる
Days Of Evanescence
少年はやがて穢れを知るだろう 悪意を識るだろう
そうしていつしか自分の心を震わせたものをも忘れてしまうだろう
脆く 儚い だからこそ美しい
少年はまばゆいばかりの輝きを放って そうして大人になるのだろう

モーニング・ツーにて連載。
「隠の王」を連載されていた鎌谷悠希さんの、
天使の歌声とも呼ばれる「ボーイソプラノ」を持つ少年の、青い春を描いた新連載です。
いやあ これは… 畑こそ違えど「さよならフットボール」に共通するテーマを持ったマンガですね。

春らんまん風心地よく 青空に桜色映える中学校の入学式に
ぼろぼろと人前にも関わらず大粒の涙を流す少年がおりました。
彼の名は蒼井由多香(あおいゆたか)
新入生で女の子のような風貌に、背丈もうんと低く、
そのうえ入学式で合唱部の先輩たちが歌う校歌斉唱に、ただ一人ボロ泣きするくらいの感動屋。
彼は私達が普段何気なく聞き流しているあらゆる音―例えば早朝の新聞配達の人のバイクの音、
犬と一緒にジョギングをしている人の足音、やがて陽が昇り始めて飛び立つ鳥達の羽ばたき
店を開けるシャッターの音、ラジオ体操の軽快な音声がどこかから聞こえてくるかと思えば、
あちこちで呼び交わす近くの学校の生徒達の声と、自分の耳に入ってくる「朝の音」に意識を傾け、
それを楽しむことができる。更には持ち前の高く美しいボーイソプラノの声で、
そのあふれ出さんばかりの情感の込もった彼の歌声に、聴いた者は思わず惹き込まれてしまうという。
類まれなる音への感性と、それを表現する天使の歌声をもった少年なのです。
お話は、そんな彼が中学の合唱部に入部し、そこで出会う部員たちと触れ合いながら成長していく
青春ものとなっていくようです。

img234.jpg

著者の鎌谷さんはWikiによると女性の方で、少年合唱グループの「Libera(リベラ)」がお好きで
いらっしゃるようです。動画サイトなどでいくつか聴いてみると、声変わり前の少年たちが
白い天使のような衣装を着て、透明感のある高い歌声で歌い上げる様子が出てきます。
なんのてらいなく澱みもなく、文字通り音を楽しむことができる存在―
その純粋性の象徴であるような高いソプラノが、いずれ必ず訪れる「声変わり」を経て
「成長」という名の下に喪われていく儚さ。それを一つのテーマとして描かれているようです。

以前ご紹介した「さよならフットボール」では、「子供」という名の下にいっしょくただった
少年少女が、「男」と「女」に別れ決定的になっていく体格(フィジカル)の差に
思い悩む少女・希の姿が描かれ、アニメ化もされた「放浪息子」では、
女の子になりきるのが好きな修一君が、自らの声変わりにおののく姿が描かれます。
「魔法少年マジョーリアン」では性差(ジェンダー)を強く意識し、「男らしさ」「女らしさ」に振り回されるマサルとイオリの姿が描かれました。
そしてこの作品もまた、まだ何者でもなかった自分が大きく何者かへと決定付けられていく、
「変身」と言っても良いほどの変化に、えもいわれぬ不安を抱えるユタカ君の姿が描かれ、
ユタカ君を合唱部に誘った副部長の町屋さんは、いずれ失われていくものについて興味がある―と
含みを持たせた独白をしています。

img235.jpg

そしてもう一つのテーマは、対照的に変わりゆく自分の拠り所となるであろう音楽…
とりわけ「合唱」に対する想いが印象的に描かれます。
高い声、低い声、強い声、弱い声、音痴までいる様々な声が渾然一体となって
一つの大きなうねりとなって響く。中身はそれこそ多様性の見本市のような、
考え方も声の質も異なる部員達が、ダントツの歌唱力と天使の歌声を兼ね備える
ユタカ君の入部によってあちこちぶつかり合いながらも最終的にはひとつの目標に向っていく…
例えユタカ君が変わってしまっても、それを受け容れ、それでも音楽を楽しみ目指す方向は変わらない。
そんな合唱部の存在が、ユタカ君の強い拠り所となっていくのだと思います。

img236.jpg

歌うユタカ君たちの姿をダイナミックに表現する画づくりも必見です。
音をイメージさせる絵の構図や、オノマトペの姿かたちの多様さ、
拡がりと物語を感じさせる見開きの見せ方がとても印象的でした。



鎌谷悠希さんのHP → 烏羽
一話試し読み → 講談社コミックプラス
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:コミック

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

ぼくらのよあけ蠢太郎 ブログトップ
ブログパーツ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。