SSブログ

沓掛時次郎 [燃え]


劇画・長谷川 伸シリーズ 沓掛時次郎 (イブニングKC)

劇画・長谷川 伸シリーズ 沓掛時次郎 (イブニングKC)

  • 作者: 小林 まこと
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/11/22
  • メディア: コミック


一宿一飯の恩があるので怨みもつらみもねぇおまえさんとは敵対するが、
 信州沓掛の時次郎という下らねぇ者でござんす


その親子連れがここ熊谷の安宿にやって来たのは ひと月前のことだった―
野宿でもしてきたらしく うす汚れてはいたが、夫婦ともに礼儀正しく
人柄が気に入ったので泊めてやることにした。
しかしこの夫婦は妙な夫婦なのである。
夫婦なのにけして夜を共にせず、亭主は物置に部屋を作ってそこで一人で寝るのである。
他人の事を詮索するのは野暮だとは思ったが、いったいどういう間柄なのか
あまりに気になったので、井戸の水汲みにやってきた夫と二人になった機会につい尋ねてみた。
「あっしら… 夫婦ではねぇんですよ」
「え? それじゃあなにか ワケありのコレかい?」
私が小指を立てると、男はかぶりを振った。
「いやあ… 女房でも情婦(いろ)でもありやせん 他人です…」
そうなるとますます解らない。
何故他人の女性と子供を連れて、男は旅をするのか…
思わず前のめりになった私の追求に、男はじっと水の入った桶を見つめながら一言
「そいつは…お聞きなさらねぇでくだせえ…」
と、短いがはっきりと答えた。
男の名は 沓掛時次郎
三月ほど前まで名の通った博徒だった彼は、どこまでも情け深い男であった―

イヴニングにて連載。全一巻。
前回ご紹介した「関の弥太ッペ」に続く、長谷川伸による股旅物の時代劇から
小林まことさんがコミカライズした作品をご紹介します。
股旅ものと言えば、義理と人情。
やくざ者があちらこちらと旅をして、そこで出会った縁もゆかりも無い他人のため、
自らの命を惜しげもなく張ってみせる男意気がカッコイイ時代劇です。
前回の関の弥太ッペで初めて、今は亡き時代劇の大家・長谷川伸氏を知り、
このシリーズに惚れこんだこの道30年のベテラン漫画家・小林まことさんの漫画を拝見しました。
それ以来待ちに待ってた単行本第二弾ということで、これは是非にとご紹介させて頂きます。

旅中 下総で受けた一宿一飯の恩義を返すため、
時次郎はその土地のやくざ者同士の抗争に巻き込まれる。
有力者・大川一家の親分から提示された用件はひとつ。
かつてこの土地を縄張りにし、親分が召し捕られたことで一家が崩壊して
現在は唯一人一家の看板を背負い続ける男・六ツ田の三蔵を斬る事だった。
恩返しをする相手がどれだけいけ好かない相手でも、受けた恩義は返さねばならぬ。
時次郎は気が進まないながらも、正々堂々の一騎討ちによって六ツ田の三蔵を討ち果たす。
しかし大川の手下共が更に三蔵の遺された妻と息子をも手にかけようとするのを阻止したため、
時次郎は「義理を欠いた」と迫る追っ手から、自分が仇であることを承知で
二人と共に逃亡生活をすることになる…

序盤に出てくる清廉潔白な男・三蔵との一騎討ちからもういきなりシビレっぱなしです。
「あんたに怨みはねぇが、恩を受けたら返さねばならない」と言う時次郎に
「あんたの立場はよくわかるぜ」と潔く一騎討ちを承諾する三蔵。
この阿吽の呼吸というべき義理を何より重んじる美意識がたまりません。
そして斬られた後の三蔵が、今わの際に時次郎に遺された家族のことを頼み、
時次郎はこの親子と共に逃亡生活をしながら、かいがいしく尽くしていくのです。

昨日まで会ったことも無い赤の他人のためになんでここまで…
というのは関の弥太ッペの時もそうでしたが、
どんなに非道な相手でも受けた義理はきっちり返す一方で、
情が深く「こう」と決めたら命を捨ててでも守り通す鉄の意志を持った時次郎。
愚直なまでに自身の美学に殉じる姿は、今時流行らないのでしょうけれども
やっぱり胸を熱くさせずにはいられません。
そして本来なら夫の仇と恨みこそすれ赦す義理も無い三蔵の妻・おきぬも
堂々とした名乗り合いの末の決着であったことを受け入れ、
全てを投げ打って自分達に尽くしてくれる時次郎に一片の怨み言もないという
極道の妻らしい潔さでむしろ甲斐甲斐しくしてくれる時次郎に心から礼を言いながら
この3人が徐々に新しい家族のようになっていく様子がいいんです。

img622.jpg
クライマックスで時次郎が二人のためにあえて修羅となる殺陣のシーンも必見です。
淡々と襲い来る相手を確実に切り捨て、啖呵をきる時次郎のカッコいいことと言ったら…!

前の記事でも書きましたが、時代劇コミックを普段読まない方にも
かつて現代を舞台にしたコメディ漫画を多く描いてこられた小林まことさんの絵柄は親しみやすく
そういった意味でいかにも「劇画」という絵柄ではありませんのでご安心ください。
特に小林さんの描くキャラクターの口の表情が素晴らしく、そこにベテランの凄みを感じられます。

400頁近くのボリュームで1,000円を切る価格もお値打ちですよ。
個人的には超お薦めです。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:コミック

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

あたらしい朝ホームセンターてんこ ブログトップ
ブログパーツ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。