春期限定いちごタルト事件 [スリル/サスペンス]
そしていつか掴むんだ あの小市民の星を
「ぼく」こと小鳩常悟朗と小佐内さんは 互恵関係を結んでいる
「小市民たれ」
その合言葉を胸に 日々の平穏と安定のため ぼくと小佐内さんは断固として小市民なのだ―
青春ミステリの俊英・米澤穂信氏の同名の小説をコミカライズしたコミック
誰かが死んだりするものではない 氏の特徴である「日常の謎」を追う本格ミステリです!
月刊Gファンタジーで連載 前・後編で単行本化されています
今年の3月号から
続編となる「夏期限定トロピカルパフェ事件」の連載もスタートしています
米澤穂信氏はライトノベル+ミステリというテイストの作品を主に描かれる方で
特に「日常の何気ない謎」をミステリー仕立てで
探偵役の主人公が解き明かしていく形式が特徴的です
例えばこの作品の序盤 高校1年の小鳩君が追うのは
とある女性の先輩の 「校内で消えたバッグ」
校内を探索するメンバーの一人として集められた小鳩君は
そこで他のメンバーで不審な動きをする生徒に着目します
その生徒の挙動から何故無くなったのかを推理し バッグの在り処をつきとめる
ちょっとした失せ物探しなのですが 裏で絡む思惑までを見通し
深みのあるお話にしてしまう意外性が この作品の特徴です
他にも
・卒業した美術部の先輩が「残しておいて欲しい」と置いていった不可解な2枚の絵
・人数分のカップだけで作る 美味しいココアのつくり方 等
小さな謎を積み上げ やがて伏線が張られた大きな謎に至る構成になっています
さて この作品にはもう一つ特徴があります それが「小市民」というキーワード
小鳩君と小佐内さんは 互いに過去の忌まわしい経験から
高校デビューを期に 目立たない「小市民」になる誓いを立てていて
小鳩君は名探偵役でありながら「推理」することを自ら封印しようと努めているのです
この理由は 私としては非常に新鮮で ありとあらゆる人間の思惑を洞察し
見破ることの出来る「名探偵」の苦悩として納得のいくものでした
小佐内さんが「小市民」となることで封印しているものとが巧く合わさって
これもまた面白い味付けだなあと思えます
この作品の面白みの本体は どちらかといえば「謎」にあるのではなく
謎を提示されることで じわじわと染み出してくる小鳩君と小佐内さんの
ミステリアスな部分 というべきでしょうか
初めての方は勿論 原作小説のファンの方であれば
巻末の米澤氏の作品解説も楽しめると思いますよ
米澤穂信氏のblog → 汎夢殿
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