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キュビズム・ラブ [恋愛]


キュビズム・ラブ 1 (B's-LOG COMICS)

キュビズム・ラブ 1 (B's-LOG COMICS)

  • 作者: 松本 テマリ
  • 出版社/メーカー: エンターブレイン
  • 発売日: 2011/06/01
  • メディア: コミック


胸が無いのに胸が痛い なんだろうこれ

気がついたらそこは見知らぬ病院のベッドの上だった―
陸上部の試合当日のある朝、私は自動車事故に遭ったらしかった。
「俺の言っていることは聞こえるか?」
白衣を着たお兄さん、のような男の人が私を覗き込む。
前髪が邪魔そうで、どことなく陰気で…けれど
「キョリ チカイデスヨ」
「…ああいや すまん」
子供っぽく笑うひと。
そして同時に私は自分の体がおかしなことに気がついた。
声がおかしい。そしてなんだか身体を動かすことができない…
「落ち着いて聞いてくれ …あなたは自動車事故にあった」
その男の人―篠田さんは、一言ずつ慎重に言葉を選びながら努めて淡々と告げた。
「ひどい有り様だった。あなたの一部だけでも助けられたのが奇跡というふうに」
そう言って彼は、私の前に鏡を置く。そこに映っていたのは、ただの一つの『箱』。
…そう。私は脳だけ生き残った、『箱』一つの姿になっていた―

コミックビーズログ キュン!にて連載。
今回はなんとも異色の純愛物語をご紹介します。
なんとヒロインが箱!
父の運転していた自動車事故で身体を喪い、
脳だけの姿で目覚めた中学生の少女が主人公なのです。
ともすれば多重人格探偵ばりの猟奇的シチュエーション。
しかし箱となったヒロインのノリコが不思議と可愛く見えてくる、なんとも奇妙な恋物語です。
こんな奇妙なシチュエーションを考えたのは、原作者の芝村裕吏さん。
「高機動幻想ガンパレード・マーチ」「絢爛舞踏祭」などのゲームのデザインを手がける一方、
漫画原作や小説コラムなど、その活動は多岐に渡ります。
一方で漫画化を担当している松本テマリさんは、2000年から続きアニメ化もされた
「今日から㋮のつく自由業! 」という女性向け人気ラノベの挿絵を担当されたり、
BL漫画作品などを手がけるベテランの方で、この何とも奇抜な物語を見事に漫画化されています。
Twitterなどでちらほら話題になっているのをみかけたのですが、
Podcast「狭くて浅いやつら」で採りあげられたのがきっかけで拝見してみました。

お話は基本的に箱の姿となってしまったノリコと、
「医者というよりは技術者」という彼女の脳を箱に移植した男・篠原の二人の会話で進んでいきます。
陸上部に所属していた中学生の女の子と、友人はたった一人しかいない、という不器用な青年。
篠原は彼女の安置されている病室に足繁く通い、ノリコは不器用ながらも箱だけとなった
自分をごく自然に人として扱ってくれ、常に気遣ってもくれる、
笑うと意外に可愛い篠原に惹かれていきます。

img494.jpg

普通の恋愛ものであれば、自分を覗き込むように観察してくる男性に顔を真っ赤にしたり、
研究者としてのデリカシーの無さを発揮して、脳波の乱れから篠原に動揺が知られてしまうことを
嫌がる様子など表情豊かな思春期の女の子の姿が描かれるのでしょうが、何しろヒロインは箱。
しかし作画を担当した松本さんは、漫符的な表現として定番の汗を書き込んだりだとか、
驚きで飛び上がるみたいなオーバーな表現を廃し、途中とあるエピソードで篠原が
彼女に ぽっぽっと「白い息」が出せるようになる機能を付加した以外は、
基本無機質な箱として描くのです。しかしこの表現力がすごい!

それは例えばフキダシの巧さ。興奮するとトゲトゲになるなど形を変える以外に、
若干どもりながら言葉を連ねて動揺を表現したりします。
そしてもう一つ特徴を挙げるならノリコの話し相手となる篠田のリアクション。
基本淡々と話す篠田がノリコの言葉に対して動揺したり、微笑んだり、
時に彼女を心配して怒ったりするリアクションが、殆どのコマを埋めることになります。
読んでいる私たちは彼のリアクションやノリコの言葉遣い、時には箱から出て来る湯気のような
「白い息」から、無機質な箱という物体が表情豊かにおしゃべりしている様子を彷彿とさせ、
可愛いと思わせてくれるんですね。いや、ホント巧いですよ。

img493.jpg

中盤からは、ノリコの暇つぶしの相手を担当する
謎めいた雰囲気を纏う篠原の友人・ヲタポンの登場や、病室の外には彼女を実験材料とみなす、
一筋縄ではいかない連中の姿も垣間見えたりもします。

「わたし、箱です。それでも、好きになってくれますか―?」
身体を喪い脳だけとなった中学生の女の子が抱いた淡い想い…
彼女の究極的にプラトニックなその想いはどのような結末を迎えるのでしょうか。
要注目な恋物語として大いに推したいと思います!


一・二話お試し+外伝ショートストーリー(ss) → コミックビーズログ エアレイド
松本テマリさんのblog → テマリウェブ
コミックナタリー → 芝村裕吏×松本テマリ対談
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