それでも恋していいでしょ [恋愛]
俺 どうやってこれから自分守ったらいいの…?
Kiss PLUSにて連載。全1巻。
チビ、ハゲ、デブ、ブス…身体的なコンプレックスを人はとても気にするものです。
だから病的なまでに自分にダイエットを課す人もいるし、何度も自分の顔を成形する人だっている。
そしてそんな自分の姿を恥ずかしいと思い、涙ぐましい努力で隠そうとするもの。
まして恋愛においてをや。
好きになった異性に自分の容姿を笑われでもしたらきっと立ち直れない。
今回ご紹介する作品は、そんなコンプレックスを抱えるとある男性の恋を、コメディチックに、そして優しく包みこむように描いた作品です。
氷室大介、30歳。
物腰柔らか、爽やかなルックス、エリート公務員として役所に務める彼は、非常に優秀で周囲に気配りも欠かさない。
どこから見てもパーフェクト。けれど彼には人には言えないとある秘密があった。
それは「毛髪」と「身長」。
彼は毎朝念入りに髪を整え、底上げした靴の中敷をチェックする。
誰にもバレたくない、傷つきたくない。
そんな彼が密かに好きになったのは、こんな自分のコンプレックスを丸ごと包んでくれそうな女性だった…。
大介は昔つきあっていた女性から後退してきた頭髪について言及され、それが原因で別れてしまったという苦い経験があります。以来彼は他人に自分のコンプレックスを知られることを極端に恐れ、物腰は柔らかだけれど精神的に他人と距離を置くようになってしまいます。
風が吹けば自然と手が頭にいくし、彼の周囲への気配りは、実はコンプレックスの裏返し。他人よりも劣っているという意識があるからこそ、他人よりも優位に立ちたいという意識が成せるわざ。職場の同僚にも一様に好評価されているのですが、なんとなーくプライベートに立ち入らせない雰囲気をかもし出しています。
そんななので彼は、以前ハゲや身長の低さを全く気にしないと話しているのを見かけた神保アキに密かに片思い。けれどやっぱり以前のトラウマもあって積極的にはなれずに、心の中でまるで女神のように崇め奉ったままのプラトニックな恋をしているのです。
そんな折、彼に最悪な事態が訪れてしまいました。
外でうっかり他人に自分の後退した頭を見られてしまったのです。
それでも見ず知らずの他人だからと考えなおすも、後日偶然にも大介の部署で新規採用され、遅れてやってきた女性と知って愕然。彼女=三ツ矢リサにさり気なく先日見たことを口止めをしようと試みますが、どうやら彼女は目が悪くその時メガネをしていなかったためによく見えていなかったらしい…? ホッとしながらも、どこかぬぼーっとしたつかみ所のない彼女が、見た目に反して大介を脅かすほどに仕事ができ、さり気なく他人に気配りをする様子も見て取れることから、かえって大介の(勝手に意識している)優位を脅かすものとして映るし、やっぱり自分のハゲを知っていて知らないフリしてるんじゃないか、という疑心暗鬼を生んでしまいます。
この大介のせこせこした内面と、外づらの良さとのギャップがコメディチックに描かれるわけですが、面白いと思う反面、幸いにして(別に自分は高身長だとかルックスがいいといってるわけではないですよ)そういった悩みを抱えていない自分は大介にどう接していいかわからないような気分になっていきます。彼のコンプレックスを知った時、彼になんと声をかけますか。ましてや相手はプライドの高い男性です。
可哀想、とかそこから生じる優しさを彼は「上からものを言われているようだ」と最も毛嫌いするのです。
なんとなくわかる、その気持ち。結局他人がどうこう言っても、彼自身が自分で開き直れなければどうもしようがないんでしょう。彼自身もそれを承知していて、だから他人の「お情け」をもらうような自分になることを極端に恐れるのです。
そんな感じで大介はリサという存在がきっかけでズブズブと深みにハマっていき、さらに片思いのアキには意外な恋のライバルが現れ、最後には決定的な場面に追い込まれていきます。
どん底に落ちた彼が最後にどのような心境に至ったか…?
それはぜひこの作品を読んでみて欲しいです。
楠田夏子さんのblog → クスダブログ
楠田夏子さんへのインタビュー記事(2009年) → Kiss+スペシャルサイト
楠田夏子さん、江本晴さん、日下直子さんの交換日記企画 → 晴れた夏の日直
余談ですが同系統の身体的コンプレックスを題材にした作品として安野モヨコさんの「脂肪と言う名の服を着て」という作品もお薦めでございますよ。
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