地球恋愛 [恋愛]
…ラザニア 残さないで全部食べよう……
「20世紀少年」や「BILLY BAT」「YAWARA!」などでおなじみの浦沢直樹さんの
絶版となっていた過去作「MASTERキートン」が完全版となって今月末に発売されます。
私は浦沢さんの描くご老人たちが大好きで、毎度女性に惚れこんでは面倒をキートンに
押し付け飄々としている主人公・キートンの父親や、保険屋のオプ(探偵)として
世界各国を飛び回る先でキートンが出会うご老人達がたまらなく魅力的なのです。
彼らの何十年にも渡って蓄積されてきた思い、こだわり、人生の重みが、
時に私達から観て愚行だと思えるようなガンコさとなって顕れても、
キートンはそれを簡単には覆せないのです。浦沢さんはそんなご老人たちの
それまで経てきた年輪のようなものを描き出すのが実に巧いのです。
そして今回ご紹介する作品もまた、熟年・ご老体の方々の様々な恋物語が
国を替えオムニバス形式で描かれます。
「テルマエ・ロマエ」のようなコメディを描く一方で、「ルミとマヤとその周辺」や、
その続編となる「涼子さんの言うことには」などで魅力的な大人たちを描いてきた
ヤマザキマリさんは、「熟年及びご老体フェチというわけではありませんが」
と断りを入れながらも、やはり敬意と愛情のこもった眼差しで恋する彼らを描き出しています。
それでは前置きが長くなりましたが、ご紹介してまいりましょう。
Kiss PLUSにて連載。
イタリア、ツバル、デンマーク、リオデジャネイロ、シリア、シカゴと
毎回国をガラリと替え、そこで生活する人々の恋愛を描くお話。
とはいえ「恋愛」というとなんかこう…普段若者たちの青い春ばかりを読んでいる私には
心の中に情熱的なものを秘めたようなものの印象を受けてしまうのですが、
この物語に出てくる男性はじんわりと相手を包み込むような優しさで溢れています。
自分を振り向かせよう!と躍起になるのではなくて、初回に出て来る恋多きイタリア男ですら
相手の女性が違う男性のことを好きなのだと悟るとあっさりと身を引いていく
言うなればプラトニックな恋、秘めたる恋なんですね。
求め続けていくものが「恋」、与え続けていくものが「愛」(byさだまさし)とするならば、恋よりも愛に近い。
何十年も連れ添った熟年夫婦の絆を描く物語もあってこちらも秀逸です。
「シリアの砂漠」ではそれが両方読める私のお気に入りの一作で、
砂漠の只中で出稼ぎに行った夫を3年間待ち続けている女性のところに
写真家のショボくれて頼りない男が一夜の宿を借りるというお話なのですが、
気丈に振舞いながら、今日は戻るか明日は戻るかと夫がいつ帰っても迷わないように
毎夜焚き火をおこし続ける女性に対して、彼女の美しさに一目惚れしてしまった写真家が
その家を辞し彼女に送った「愛」の形は…
「僕は君の事好きなんだよ!好きなんだよ!」と主張する青い春もあれば、
相手の心の負担にならないように控えめに控えめに接して
相手の女性が何かのきっかけで自分の好意にきづいてくれたらいい…という恋。
なんともはや、シブい大人な恋じゃないですか。
かと思えば最後の堅物男が恋を知る物語「アメリカンダンディ」で、遅れてやってきた
青い春に目覚めた男を描いて見せたりもするヤマザキさん。
女性が感じる可愛い男ってこういう人なんだろうなあ。
熟年の実にダシの利いた恋愛物語ですよ。
ヤマザキマリさんのblog → シカゴで漫画描き
→地球恋愛という新作 (連載開始時のヤマザキマリさんのメッセージ)
→地球恋愛 (8/20の王様のブランチで紹介されるそうです インタビューもあるみたい)
MASTERキートン 1 完全版 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)
さだまさし「恋愛症候群」
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