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自殺島 [青春/自分探し]


自殺島 1 (ジェッツコミックス)

自殺島 1 (ジェッツコミックス)

  • 作者: 森 恒二
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2009/08/28
  • メディア: コミック


死ねなければ 死ねないなら― 生きるしか…ないんだ

「な…なんなんだ ここは!!??」
次に目覚めた時、そこは見知らぬ孤島だった。
島の小さな港には自分と同じ経緯でやってきたと思しき男女が、
やはり愕然と周囲を見渡している。
自分と同じ―
そう、「自殺常習者」たちだ。
親から逃げ、周囲から逃げ…
そうして僕は眠るように穏やかに、この世を去るハズだった。
「ネットの噂で聞いたことがある…」
誰かが囁くように呟いた。
それは年々増加する自殺者に対する費用を負担しきれなくなった国が、
自殺を幇助することもできない国が、生きることを放棄した人々を島流しにしている…と。
噂ではその島のことをこう呼んでいた。
「自殺島」と―

ヤングアニマルにて連載。
「ホーリーランド」の作者でもある森恒二さんが描く、
自殺志願者たちによるサバイバルドラマです。
陰影の濃い、ぬめっとした独特の絵柄が肌に合わず敬遠していたのですが、
読んでみたところこれが面白かったのでご紹介します!

ここ10年ほどの日本での自殺者は毎年3万人を超え、
戦後最大にして最長のピークを迎えている…
今はそんな時代なのだそうです。
私の周囲では幸いにして不穏な噂は聞かずに済んでいますが、
経済的なものにせよ、人間関係によるものにせよ、数字は雄弁に
そういった人々がいることを示しています。
1993年には様々な自殺の方法を列挙した「完全自殺マニュアル」という書籍が刊行され、
話題になったこともありました。
自殺に関する興味深い著作としては、雨宮処凛さんの「自殺のコスト」という本もあります。
これは自殺、もしくは自殺未遂をすることによって起きる損害をお金の面で示した本で、
例えば電車に飛び込む自殺を試みた場合、死ねなかった場合に発生する医療費、
事故の影響で振り替え輸送等を行った鉄道会社から請求される何百万から、
時には億を超えることもある莫大な損害賠償請求の概算を示すなどして、
いかに自殺が自分に、そして家族や親戚に多大な影響を与えるものかを著しています。
そして今回ご紹介する本は、これもまた一つの思考実験的な性格のある著作として、
また、自殺志願者が何故そういった状況に追い込まれてしまったのか、
彼らがどのような結末を迎えるのかを描くエンターテインメントとして、
とても興味深いものでした。

前置きが長くなりましたが…
物語はその自殺者にかかるコストを国が支えきれなくなったという架空の日本で、
生きる権利と義務を放棄した自殺常習者がコンビニもスーパーもない無人島で
生き残るための生活を始める、というものです。
日本の法の及ばない島に送られた彼らは日本では死亡扱いとされ、IDを剥奪されて
再び日本の領海に入ることを禁じられてしまいます。
一応その直前に意思確認と書類へのサインを行っていますが、
この島に連れてこられた一行が皆一様に目覚めた時に驚いている様子からして
こういった状況になることは書いていないようです。
ともあれ、とある事情によって薬物自殺を図った主人公のセイは、
再度自殺をするのだから、とこの不可解な状況で比較的淡々としていたのですが、
直後に港の建物から投身自殺をした人たちと、身体中の骨が砕けて動くこともままならず、
苦痛で身悶える死に損なった者の末路を目の当たりにして、
想像を遥かに超えるリアルな光景に恐怖を感じるようになるのです。

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死ねないなら、生きるしかない―
これほど後ろ向きな生への執着を語る言葉は初めてです(;´▽`A``
せめて最期は眠るように穏やかに死を迎えたい。
そんな死への甘い幻想を打ち砕かた一行は、この全てを自給自足するしかない無人島で
見よう見まねのサバイバル生活をすることになります。
勿論中には、うまくいくか分からず、よしんばうまくいったとしても
先に希望が待っているわけでもないこの生活を拒否して、
思い思いの場所で自殺していく人もいます。
生きることを選択したセイたちも、とにかく生き延びるために協力し
日々を懸命に過ごしながらも ふと、冴え冴えとした月の光が射し込む夜などには
不安と恐怖が甦って強い自殺衝動にかられたりするのです。

そんな中主人公のセイは、高校時代に出会った弓道部兼図書委員の女の子の影響で
覚えた弓矢の知識をもって、島に生息する鹿の狩猟に挑みます。
そして心身を極限まで研ぎ澄ませ、純粋な命のやり取りを体験したセイは、
徐々にその考え方に変化が現れてくるのです。

無人島生活での食料の確保のしかた、狩猟の様子や畑の耕作。
本格的にそういったことを学んだような、チュートリアルの頼もしすぎる
レンジャー隊員みたいな人はいないものの、それぞれが出来ることを持ち寄って
皆で生きようと協力する様子。
そして元々自殺志願者だった彼らがどのように変わっていくのか、あるいは変わらないのか、
更に日本の法が及ばぬこの島に現れる、「奪う者」と「奪われる」者の対立。
自身を「持たざる者」と称し、弱者である自分に屈折した感情を抱く者など、見所はいくつもあります。
セイが仕留めた鹿を解体していく様子も、肉の保存方法も含め、
そのリアルに感じられる描写が素晴らしい!
とっつきづらいクセのある絵柄かもしれませんが、読み始めるとぐっと引き込まれる漫画です。
面白いですよ!

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コメント 3

KAI

近いうちに実写映画になりそうな作品ですよね。
(自殺しなさそうなイケメン俳優を起用しそうですが)
作者である森さんは『ホーリーランド』2巻の後書きで自殺について少し触れていましたが、その当時から『自殺島』の構想はあったのかもしれませんね。
色々な立場の人に読んでほしい良作だと思います。

by KAI (2011-02-07 13:56) 

meriesan

あー映画化…ありそうですね(;´▽`A``
ホーリーランドは未読なのですが、さすが目の付け所がいいですね。
自殺はイカンみたいな説教臭いものでもないし。
人によって色々な反応が見られそうな作品ですよね!
by meriesan (2011-02-07 20:49) 

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