スピカ 羽海野チカ初期短編集 [ハートフル]
スピカ 〜羽海野チカ初期短編集〜 (花とゆめCOMICSスペシャル)
- 作者: 羽海野チカ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2011/07/20
- メディア: コミック
なにかを好きになるって そんなに悪いことなのかなあ 笑われるほど?
間もなく「3月のライオン」の最新巻が発売になる羽海野チカさんの、
出世作「ハチミツとクローバー」と同時期にあちこちで描かれていた作品を集めた小品。
ページ数は100ページ程度と、見かけたときの印象は「同人誌みたい」(;´▽`A``
初期作品集というと、やっぱりどうしても作画的に初期っぽい拙さが出るものですけど、
この作品集はハチクロ時代の絵柄ということで、それほど違和感がありませんでした。
確かに描き下ろしの今の絵が出てくると、むしろうわぁ~綺麗!ってなるんですけど、
昔は昔でそのお話にマッチした絵になっていて、羽海野ワールドとでも言うべき
物語に引っ張り込む雰囲気作りがやっぱり巧い作家さんなんだなあという印象。
それではご紹介してまいりましょう。
りんちゃんクッキーのひみつ [ハートフル]
「あははははは おかしいね おかしいね お父さんっ」
「わはははは そーだろーそーだろー」
どこまでも田園風景が広がる のどかな田舎町―
小さくて古いけれど広いお庭のついてる家に引っ越してきたのは、
お父さんと一人娘の鈴ちゃんの里梨一家。
お母さんは鈴ちゃんの小さな頃に亡くなってしまったけれど、
おおらかだけどどこかヌけてるお父さんには明るくてしっかり者の鈴ちゃんと、
いつも一緒のももんがのぬいぐるみ・アプーがついているからへいき!
お隣の郁子お姉さんもやってきて、ほんわかあたたかいハートフルストーリーの開幕です!
長い長いさんぽ [ハートフル]
生きてるってすごいね ゆずはすごかったね
「これは読んでおくといいよ」
いつもの同人誌即売会からの帰り道。
当時親しくさせていただいていた同人作家 あかやまゆきへさんと立ち寄った本屋で、
マンガを物色する私に薦められたのは一冊の猫まんが。
少し緑がかった水色の表紙に、虎縞模様のつぶらな瞳の猫と、
その周りにちょんちょんと3本のたんぽぽ。
それが須藤真澄さんの本に触れた、私の最初の一冊でした。
当時の私は実家住まいで猫を飼う前。特に動物マンガに興味があるでもなく、
非常に簡素だけどどこか温かみのある表紙にも、猫マンガならどれもこんなカンジだよなと思いました。
とはいえ毎度私好みの作品を教えてくださるゆきへさんのお薦めならと
特に何も考えず購入したのを憶えています。
あれから5年―
結果、このマンガは今だに私の中での猫…いや動物マンガくらいに拡げても尚、
不動の一冊として残りつづける作品となりました。
この作品は以前谷口ジローさんの「犬を飼う」のご紹介の際に軽く触れてはいるのですが、
未読の方にはぜひ読んで頂きたいので、スピンオフしてご紹介してみようと思います。
平台がおまちかね [ハートフル]
平台がおまちかね 出版社営業・井辻智紀の業務日誌 (ウィングス・コミックス)
- 作者: 久世 番子
- 出版社/メーカー: 新書館
- 発売日: 2011/04/23
- メディア: コミック
いつもお世話になっております 明林書房 営業の井辻です!
本好きな人なら、と括っていいかどうかはわかりませんが
少なからず書店や出版社に関わる人たちが普段どのような仕事をしているのかに
興味を持ったことは無いでしょうか?
本日は本の出版社の営業さんを主人公にしたミステリ仕立ての物語をご紹介します。
原作者は大崎梢さん、コミック化されたのはこのブログではお馴染み、元書店員の久世番子さん。
大崎梢さんもまた、5年前まで書店員をされ、そこからデビューして
主に書店での日常に起きる、ちょっとした謎を追う「書店ミステリー」というシリーズで
作品を発表されている方だそうです。
元書店員さん同士の強力タッグ…しかも調べてみると既に別の作品を
何冊かコミカライズされているようで、そういった意味でも原作の面白さを
存分に引き出した作品では無いかと期待できます。
それではどうぞ~
ふらり。 [ハートフル]
ああ… 江戸が… こんなにも美しいとは
これは贅沢だなあと思えるマンガでした。
谷口ジローさんのマンガを拝見するのは「犬を飼う」「孤独のグルメ」ときて
まだ3冊目なのですが、今回ご紹介するマンガは「孤独のグルメ」に近い、
歩数を数えながら江戸の町を歩き回る一人の男の物語です。
だかあぽ [ハートフル]
何度失敗したっていいじゃないですか もう一度最初から始めるんです…
もう一度… もう一度…! 音楽の譜面で言えば… “D.C.(だかあぽ)”ですわね…
時は明治。
風薫る季節…背中に大荷物を背負ったはつらつとした少年が、
猫を一匹お供に連れて菅原高等学校に入学した。
(牧村先生… 俺…とうとうここまで来たよ…)
少年の名は波多野万次(はたのまんじ)、彼が興奮するのも無理は無い。
ここは彼が幼少の頃、万次に勉学を教えてくれた恩師の卒業校でもあったのだ。
意気揚々と学生寮を訪ねた万次。とにかくも管理人室に挨拶がてら案内を請おうと
馴れない寮内をウロウロしていると、近くの部屋から人の話し声が聞こえてくる…
(おっ 誰かいるぞ… 挨拶しとくか…!)
これから同じ寮に住むもの同士、最初の挨拶は肝心だ。
万次は小柄ながら扉を開け、これ以上無いくらい元気な声で挨拶した。
「皆さんはじめまして!! 今日からここでお世話になる波多野万次です!!!」
刹那―
先ほどまでしていた姦しい話し声が、水を打ったようにしん…と静まり返った。
そして万次もまた、扉を開けた格好のまま瞬時に硬直していた。
…それもそのはず、その部屋は女子生徒たちの更衣室だったのだ…!
『キャーッ チカンよ~!!』
その声に弾き飛ばされたかのように、真っ赤な顔で両手に脱いだ下駄を持ち、裸足で遁走する万次。
「キャッ!」
その途中、ぶつかった女性が持っていた紙束を取り落としてしまう。
すかさず万次は詫びながら、全力でそれを拾い集めてその女性に手渡す。
「ありがとう…」
思わず目を瞠った。
理知的でいながら温かい瞳、頭に大きなりぼんを結び、たおやかに微笑むその姿…
先ほどまでとは全く違った興奮に紅潮する。正に一目惚れだった…
「随分親切なチカンさんね…」
「俺 チカンじゃありません!!」
思わず顔を近づけて必死に弁解する万次 しかし―
『まあ 図々しい!! まだいるわよあのチカン!!』
先ほどの女性達から飛来した鍋が見事に的中。
こうして入寮初日から万次の名は、不名誉な笑い種として
ヒマな学生達の口の端にのぼることになったのだった―
ヘレンesp [ハートフル]
ちゃんと描いてますからっ! [ハートフル]
お父さんの絵は真似られても ストーリーはあたしじゃ無理だもの
私の父はマンガ家です。
でも描かないマンガ家です。
…正確には、ネームだけしてあとは逃げちゃうマンガ家なんです。
そうするとどうしたって原稿は誰かが描くほかありません。
そう―
原稿を描いているのは、実は私と、妹の空と、アシスタントの頼れるあかねちゃんなんです…!
もう!
現役女子中学生が家計を支えるってアリ!?
「次は自分で描く」って言ったよね!?
お父さんに言いたいことは山ほど、けれど周りに言えないことも山ほど…
そうして今日も私の、勉強と恋と、そして〆切に追われる一日が始まる。
もう ほんっとに ほんっとに… いい加減にしてーーー!
わずかいっちょまえ [ハートフル]
わずかいっちょまえ 1 (少年キャプテンコミックススペシャル)
- 作者: 星里 もちる
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 1991/03
- メディア: 単行本
マッハ号!! きてよマッハ号!!
雨の中ごめん!! でもきてよ!! きてよマッハ号!!
遊川和好(ゆかわわずか)はいつもがまんをしている少女だった。
母子家庭で仕事で家を空けがちな母に心配をかけさせまいと、
母からの電話には友達が家に遊びに来ているかのように振る舞い、
必死に勉強をしなくても常にトップの成績を修める優等生のわずかは、
クラスでもちょっと浮いた存在だった…
小学校時代からいつも数人で自分を「優等生」だと馬鹿にしては
酷い悪戯をしていく同級生の太一とも中学で同じクラスになり、
そしてそれらの寂しいこと、つらいことを受け止めてくれていた愛犬・マッハ号も
事故に遭って今は亡く…。
わずかの孤独感は日に日に膨らんでいくばかりだった。
そんな様子を天界で見ていたマッハ号は、わずかちゃんのため
神様に頼み込んで期間限定で地上に降り立つ。
しかし偶然太一たちにいじめられていた わずかの助けに入ったのは、
二本足で立ち、まるで人間のように話すネズミ(ウォンバット)。
しかもあろうことかそいつは自分を「マッハ号」だと名乗り、
突然のことに出るタイミングを逸した本物のマッハ号は、唖然呆然とするのだった…
亭主元気で犬がいい [ハートフル]
それは兄貴であって妹のあんたじゃない。
あんたじゃない。
九頭竜マリ―
それが私の名前。
九頭竜と言えば、その名は日本中の誰もが知っている。
人殺しの名前として…
3年前、日本中を震撼させた資産家一家の惨殺事件があった。
その犯人が私の兄。
彼は自分になんの恨みも関わり合いもない善良な一家を、
自身の自堕落な生活のため、金を奪う目的で皆殺しにした。
そしてその後の裁判でも反省の弁を述べるばかりか、
自身を溺愛する母と共に、心神喪失を理由に最後まで争って、結果死刑を宣告された。
誰もが眉をひそめる、唾棄すべき醜悪な事件だった…
そしてその罪は「加害者の家族」である私たちに容赦なく及ぶ。
マスコミの取材ではひたすらに謝り続けた、元消防士で人格者だった父が、
ある日近所の子に空手を教えていたプレハブ道場で首を吊り、
先生も、学校の友人にも、私を良く知るご近所の人たちにさえ厭われ続けた私もまた、
殺人犯の妹であることを知った彼に手酷くフられて、あの日川に飛び込んで死のうと思っていた。
そんな時に、私はあなたに出会った。
あなたは私に罪はないとハッキリと断言してくれ、
私に居場所を与えてくれ、そして―
私と結婚したいとさえ言ってくれた…
3年前のあの日から死を望まれ続けた私にとって、それはまるで夢のような生活だった。
殺人犯の妹としてではなく、彼は私を、「マリ」としてみてくれる。
この人になら、一生を捧げても良いと思った。
この先10年も、20年も、30年でも…
けれどそんな久しぶりの心穏やかな日々は、ほどなくして唐突に終わりを告げた―